
ヤマトがとんでも作品だったので、この映画もビクビクしながら観に行ったのだけれど、思ったよりもずっときちんと出来ていてびっくりした。亀山千広も駄作ばかりと油断していると時々「それでもボクはやってない」みたいな映画をつくるから困りもの(いつも少林少女やアマルフィみたいなのばっかりだと安心して観に行かずに済ませられるのに)。
さて、ノルウェイの森。小説は初版で読んでいるし、当時僕達の合コンのテーマで必ず挙げられた本だし、ノーベル賞受賞の候補としても挙げられる日本を代表する作家の作品だし(といっても、彼の最高傑作は世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドだと思うし、その系列にある「海辺のカフカ」や「1Q84」のような作品の方が彼らしさがあるとは思うけれど)、やはり見逃せない。「ノルウェイの森」が村上春樹の代表作であることも間違いなく、また、この映画を観る人のほとんどが原作を読んでいるであろうことは想像に難くなく(大卒以上で「私は読んでいません」という表明は恥ずかしいのでやめたほうが良い。「こころ」を読んだことがないとか、「吾輩は猫である」を読んだことがないとか、そういうレベルの、無教養の表明だから)、そういう状態においてどう料理するのかが見物だったわけだが。
僕の感想を言えば、非常に忠実に村上春樹カラーを出していたと思う。それから、1970年前後の空気感。これはもうビックリするくらいに忠実で、質感とか、凄かった。多くの人の記憶に残っていて、かつ再現が難しい時代の映画化というのが一番難しいと思うのだけれど(そういう意味では「三丁目の夕日」の方が簡単なはず)、この映画では、僕が観た限りでは違和感はほとんどなかった。だから、最初の30分ぐらいは「すげぇな、良くここまでやったな」と感心しながら観ていた(途中から手抜きになったのではなく、慣れた)。ただ、そういう全てがしっかりしていた中で、登場人物たちがみんなスマートだったのは違和感あり。みんな、もっとぽっちゃりしていたと思う、この時代は。男も女もみんなモデルのように細いのだけが「あれ?」という感じだった。
では、役者たちはどうだったのか、ということになるが、概ね、良い感じだったと思う。ただ、僕の感覚ではレイコさんはもっとおばさんのはずだし、緑はもっと快活だと思う。この二人はその設定自体が非常に重要で、特に緑は「生」の象徴としてワタナベを「死」の世界から引き戻す先導者のはず。そのあたりのバイタリティというか、躍動感というか、そういったものが感じられなかったのは残念だった。端役としては突撃隊が突撃隊っぽくなく、また彼をネタにして笑い飛ばすシークエンスがなかったのは残念。あと、永沢さんとワタナベのグレートギャッツビーのエピソードもなかった。あー、それから、レイコさんの弾くノルウェイの森もそこそこ重要な役割を果たしていたはずなのに、映画では説明もなく、すごくあっさりとしていた。
ストーリーの処理はそれほど無理がなかったけれど、井戸の話と物干し台で火事を見ながらビールを飲む話が欠落してしまったのは惜しい。あれだけの長さの小説を2時間30分程度の映画に押し込むのだから、当然切らなくちゃならない話は色々とあると思うのだけれど、それにしても、である。ただ、そういう味付けをごっそりと削ぎ落したこの作品は、なんかセックスしまくって、人がバタバタ死んでいく、という映画になってしまった感が否めなくもない。
でも、最後の30分ぐらいまでは、「これは、満点でも良いかな?」と思う出来だった。そこから先が減点要素ばかりになってしまったのが残念。ちなみに一番印象に残ったのはハツミさんに問い詰められるシーン。あれは名シーンだ。
以下、ネタバレのため、改行。
まず、直子の自殺の表現。不協和音を大きくかぶせての演出はどうにも好きになれない。彼女は、もっとずっと静かに死んでいったはず。それから、それ以上に惜しいのがラスト。直子との関係にレイコさんと二人でケリをつけ、直子の世界から現実の世界へと戻ってきて、でも迷子になってしまっていて、どこに行ったら良いのかもわからない。そんなときに、一際明るい存在の緑に頼って、電話をかける。彼女の声に導かれて、ふと我に帰り、「僕は今どこにいるのだ?」というセリフにつながる・・・・はずなのに、このラストでは、「どこって、家でしょ?」みたいな感じなのだ。もっと、見知らぬ場所にいて、雑踏の中でみんなワタナベに気を配ることもなくて、そうやって道に迷っていることにすら気が付かない状況で、「あーーーー、僕は今、どこに、どこにいるんだ???ねぇ、どこにいるの?助けてよ、緑!」っていう感じが欲しかった。それが全然感じられなかったってことは、緑のキャラクター付けが甘かったということなのかも知れないんだけれど。原作同様、前篇、後編に分けられたら良かったのにねぇ。
うーーーーん、気分的には☆2つ半あげたいところだけれど、やっぱりラストの仕上げで失敗しちゃった(僕の勝手な解釈なんだけれどね)のは大きな減点かなぁ。ということで、☆2つ。
それにしても、ハツミさん、怖い・・・・