
観終わって最初に思ったのは仲間由紀恵のミスキャスト。正直に言えば、僕は彼女の作品は映画、テレビドラマ含めてほとんど観たことがないのだけれど、「ヘタだなぁ」というのが感想である。もっと他の、現代劇とかをやらせればそうでもないのかも知れないけれど、この映画を観る限りではお金を取れる演技とは言いがたい。確かに若い年代からおばあさんまで、一気に見せる必要がある役どころなので、難しいのはわかる。僕が非常に高く評価している堺雅人であっても、老衰期の演技はクエスチョンマークがつく。しかし、それにしても、ちょっとどうなのか、と思うのは、若い時、および年寄りの時だけでなく、歳相応の年代を演じている時も、何か武家の嫁っぽくないのである。いっそのこと、お政を演じた藤井美菜がヒロインをやれば良かったのに、と思うくらいに残念な出来だった。
が、それ以外は、取り立ててクライマックスのない男の人生を上手に、しかも飽きさせずに観せていて、良い意味での日本的な時代劇に仕上がっていたと思う。
ちょっと微妙に感じたのは、息子がお金を無くしてしまったエピソード。拾ったお金について、「落ちているお金を拾うのは物乞いのやること。武士には相応しくないから戻してこい」と一喝するのは良いとして、彼に対して何の解決策も提示しないのはどうか。お金を稼ぐ方法を持っていない子供には、ちょっと負荷が大きすぎるエピソードである。本作は猪山家に伝わる日記や家計簿から再構成したとのことで、このエピソードがどこまで創作なのかはわからないものの、「ちょっと、どうなのかな?」と思わないでもない。そして、それが全体のストーリーの中で比較的重要な位置を占めているだけに、違和感がある。
ただ、このお金を拾うエピソードや、正しいと信じたことをやっていて組織から閑職に回されそうになっても頑張って自分の正義を通すところなど、現代人が失っている精神をしっかりと描いているところが良かった。個人的には、不正をきちんと見抜いていながらそれを摘発できなかった人間に対し、「下っ端では仕方ない」と理解を示すお偉方の姿勢も気に入った。弱者にはやりたくてもできないこともある。それをなんとかしてやるのも、上の人間のやるべきこと。
ともするとデフレ社会の中で森永卓郎や荻原博子あたりの頭の悪い経済アナリストに我田引水されそうな映画だけれど、本質はそんなところにはない。自分の信じた道を貫き通すことの美学を語った映画である。
本来なら満点でも良いと思うけれど、仲間由紀恵の演技全般と、堺雅人の老年期の演技、およびいくつかのエピソードに関する脚本の甘さで減点して☆2つ。
全く余談だが、Yahoo!映画のこの映画の紹介のフォトギャラリーが食べ物の写真ばかりで笑える。