一週間ほど前に当日の打ち合わせが入ってしまい、チケットが余りそうになってしまった。ミクシィで見つけた引き受け候補の人が雪で急遽キャンセルになったり色々あったのだけれど、最終的には僕が自分で観に行けることになって、ちょっと早めに現地に行って、当日券狙いで並んでいる人の最後尾の人に声をかけて、一枚定価で買ってもらった。大助かり。帰りに夜ご飯でもご馳走しようかと思ったけれど、シャイなので(笑)自粛。
さて、芝居。
ここ数作、分かりやすいというか、観客に対してとても親切な脚本が多かった印象のある野田秀樹さんだけれど、本作は久しぶりに「なにこれ」という感じの舞台になった。ただ、それは実は意図していないような気がする。なぜ「なにこれ」という舞台になってしまったのかと言えば、それは脚本のせいではなく、役者のせい、もっと言ってしまえば蒼井優さんのせいなのだ。
僕は蒼井優さんは結構好き、というか、かなり好きな俳優さんで、彼女が出ている映画は良く観ているし(中には『雷桜』みたいなすごい駄作もあるけれど)、彼女の演技力も高く評価している人間だ。だから、実は本作も宮沢りえさんや松たか子さんや大竹しのぶさんばかりの最近の野田作品に新しい才能が登場するかな、しかも、蒼井優さんか、ということで、3公演分も予約してしまったのだ(笑)。でも、今日の舞台の、冒頭の部分だけで、「あ、これは駄目だ」となってしまった。何しろ、声が客席に全く届かないのだ。他の役者は芸達者な役者さんを揃えているからそんなことは全然ない。基本的に、蒼井優さん「だけ」が駄目。声だけなら、蒼井優さんの鏡像のような女性の役者さんの方がずっと存在感があるのだ。登場する場面が少ないけど。この二人を交代させるだけでも良くなりそうな感じ。
ということで、主役である蒼井優さんの声が、L列までも届かないのだから、かなり大きな箱である芸術劇場中ホールでは、半分以上のお客さんには芝居が届かなかったと思う。僕のところもギリギリだった。いや、正直に言えば、届いていなかった。今の実力では、中ホールで野田作品の主役を張るだけのスキルは持っていない、というのが普通の評価だと思う。
内容は、いつもの野田作品らしく、日本人のアイデンティティを問うようなものになっていた。そこに白頭山などが出てきて、天皇、戦争なども絡め、色々と日本人としての「自分」を見つめ直すことを要求していたんだと思う。が、残念ながら、野田秀樹さんが意図していたような成果は出ていないと思う。それは舞台にいる野田さん自身が感じているんじゃないだろうか。前半の導入部における「天皇を利用した詐欺」の部分も、なかなか面白さが伝わってこない。面白くなりそうなのに、芝居がぶった切られてしまうのである。蒼井優さんの声が届かないから。
ただ、野田さんはこれまでも、ちょっと能力の足りない役者さんたちを上手に使い、そして上手に成長させてきた。この舞台を通じて、蒼井優さんも大きく成長できるかも知れない。問題は声量なので、短期間で一気に挽回する、というのは難しいかも知れないのだが、そういう一発逆転を待つべきだろう。野田秀樹さんの芝居は本人曰く「3回目が一番出来が良い」とのことだが、今日の3回目は全く不出来。そして、どうせ観に行くなら、公演も最後の方、3月後半に行くことをお薦めする。僕は2月中旬のチケットはすぐに友達に売ってしまった。3月末、最終版で舞台がどう変わっているかを楽しみにしたい。あるいは、5列目ぐらいまでなら楽しめるかも。
今日の段階での舞台の評価は☆半分。ただし、役者ごとの評価だとこんな感じ。
妻夫木聡 ○
蒼井優 ×
渡辺いっけい ◎
高田聖子 ○
チョウソンハ ◎
黒木華 ○
銀粉蝶 ◎
藤木孝 ◎
野田秀樹 ○
とにかく、蒼井優さんで全部だめになってしまった。でも、演技はちゃんとしているんですよ。地味な顔立ちなのに、大竹しのぶさんみたいな可愛らしさがあって。とにかく、声。声なんです。いきなり中ホールって、無理だったんじゃないかなぁ。小ホールなら全然問題ないと思う。でも、今、小ホールで毬谷友子さんがやってるんだよね。逆だろ、と。明日観てこようかな・・・。
「南へ」
3月31日まで、東京芸術劇場中ホール