2011年03月31日

「南へ」千穐楽

二回目の鑑賞は前から5列目、舞台に向かって右サイドという比較的良ポジション。前回のレビューはこちら。

一番の注目点は、前回ダメダメだった蒼井優さんの声。始まってすぐにわかったけれど、彼女の声は指向が狭いと言ったら良いのかな、スイートスポットが狭いと言ったら良いのかな、ツボにはまると凄く良く届くのだけれど、その方向がものすごく限定されている。あと、自分でも声が通らないと気付いたのか、終始怒鳴りっぱなしで強弱がない。他の役者が10〜6のレンジで声を出している中、8でずっとやり続けているみたいに感じた。強弱がない上に常にイッパイイッパイなので、見ていて凄く心配になる(汗)。だ、大丈夫なのかな、みたいな。考えてみると野田秀樹さんはこういう女優さんが好きなんだよね。竹下明子さんもこういうタイプだった。しゃがれていて、イッパイイッパイの声を出す。でも、竹下明子さんの方が上手に芝居に溶け込んでいたかな。それは、竹下さんのほうが体が大きく使えたからだと思うのだけれど。今回は周囲の女優さんたちがみんなきちんとした発声の中、蒼井優さんだけがぎりぎりのところでやっている。もしかして、そういう状態で生まれる緊張感をわざと作っているなんてことは、ないよね???僕みたいな演劇素人がこういうことを言って良いのか悩むところだけれど、蒼井優さんは、発声にしても、表情の作り方にしても、一つ一つが大きい箱にフィットするだけのものを持っていない。というか、箱に無理やり合わせていることによって、常に全力投球になってしまっている。強弱、メリハリが無いので、見ていて疲れてしまう。余裕がないのだ。これが他の役者さんたちと全く違うところ(実際は、妻夫木聡さんもちょっと怪しいところなんだけれど、でも、以前より上手になったから)。もうちょっと小さいところからやらせてあげたら良かったのになぁ、と思うけれど、事務所の都合なんでしょうか。竹下明子さんと大竹しのぶさんを足して2で割ったような魅力がある女性なので、野田さんが気にいるのは全然不思議じゃないんですが。という、蒼井優さんだったけれど、前から5列目ということもあって、声はしっかり届いた。おかげで、「え?こんなセリフだったんだ」っていう場面がたくさんあって(笑)、なんか二度目って感じがしない。

役者さんで良かったのは、まずチョウソンハさん。彼は松澤一之さんみたいな感じで、野田さんも使いやすいんだろう。渡辺いっけいさんは無難なところ。古田新太さんと渡辺いっけいさんは野田地図では大体同じような役どころで、ちょっと枯れた感じの役割。古田さんに比較するとややテンション高めだけれど、決して悪くない。高田聖子さんも安定感抜群。でも、銀粉蝶さんと藤木孝さんの方が存在感があったかな。銀粉蝶さんはブリキの時からずっと中心でやってきた人だし、藤木さんは文学座出身だから、下手なわけがない。黒木華さんは凄く良いと思ったけれど出番が少なくて、太田緑ロランスさんはちょっと蒼井優さん的なテンション高め安定っぷりがちょっとどうかな、と。目を剥きすぎ(笑)。ただ、前から5列目というポジションなら、「残念」と感じる俳優さんは一人もいなかった。役者としての野田さんは、この芝居位の出番がちょうど良いんじゃないかと思う。

ストーリーは火山観測所にやってきた虚言癖のある女性と新しく配属された男性所員を中心に進んでいく。はじめはいつもどおりのドタバタ。やがてインチキ皇族が出てきて、徐々に話がこんがらがっていき、ドラマを期待するパンピーを意識したマスコミの暴走を皮肉り、天皇を中心とした国家体制を批判し、最後には北朝鮮に飛んでしまう。ストーリー的には大分まとまりがなく、突き詰めていこうとするとキリがないのだけれど、以前遊眠社時代の俳優さんたちと飲んだ時に「わかってんですか?」って聞いたら「あんまりわかってなかった」って言っていたので(笑)、多少わからなくても問題ない。漠然と、日本人に対する皮肉とか、日本人であることの意味を考え直すキッカケになれば良いんじゃないかと。火山の噴火と津波という差異こそあれ、とても大きな関連事象が起きて、それをはさんでの二度の観劇はなかなかに面白かった。今日は、とにかく、一つ一つの事件をこの間の地震に重ねあわせてしまうから。

毎回テーマを持って臨む小道具、今回はパイプ椅子。色々な表情を見せるパイプ椅子はなかなか面白かった。

全体としては、やはり多少まとまりの悪いところがあったと思う。メインの二人には、ちょっと舞台が大きすぎた感じ。紀伊国屋とか、本多劇場とか、頑張ってシアターアプルといった力量だと思う。特に蒼井優さんは池袋なら小ホールでやらせてあげれば凄く良い芝居を見せてくれそうなのに残念。

評価は☆2つ。ちょっと甘いかな。

舞台前にはさっきブログで紹介したアナウンスがあり、カーテンコールでは「地震以降(3月以降だったかな?)のチケット代は全部寄付している。小銭があれば、募金していってくれ」との話があった。今日限定で最近の3部作の写真集を先行発売するということだったので、ちょっとお金を多めに用意してあったんだけれど、写真集はいつでも買える(今回は先行発売)ということで、写真集用のお金は募金箱に入れてきた。しばらく野田さんの芝居はないみたいだけれど、地震のおかげで今回来ることができなくなってしまった人と、次は一緒に観ることができたら良いな、と思う。

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この記事へのコメント
私は23日に観てきました。

私も右寄りの同じような席でしたので、懸念していた聞き取りにくさはほぼなかったですが、おっしゃるとおり蒼井さんは目一杯という感じでしたね。

声の質から言ってあれが限界なんでしょうね。黒木さんなんかと比較すると差を感じました。劇場が予想より大きかったですねw

作品は、漠然と理解できましたが、時節柄インパクトがありましたね。後で友人にもらった戯曲のコピーを読んでより納得しました(笑

Posted by yamarine at 2011年04月01日 17:54
> 私も右寄りの同じような席でしたので、懸念していた聞き取りにくさはほぼなかったです

うん、聞き取りにくいということはなかった。でも、「あ、この感じだと、後ろまで届かないな」っていう場面は多々ありました。

> 声の質から言ってあれが限界なんでしょうね。黒木さんなんかと比較すると差を感じました。劇場が予想より大きかったですねw

大太鼓と小太鼓、それぞれ役割が違いますからね。黒木さんは、後ろを向いていてもちゃんと声が届くもの。

> 作品は、漠然と理解できましたが、時節柄インパクトがありましたね。後で友人にもらった戯曲のコピーを読んでより納得しました(笑

セリフにパワーがある芝居だからこそ、声が重要なんですよねぇ。だからといって、どこぞの劇団みたいに安易にマイクにべったり頼って欲しくないですし。
Posted by buu* at 2011年04月01日 23:20
初めて見た時に混乱してしまい悔しかったので5回観ました。

結果的に蒼井&妻夫木の起用は大成功だったと思う。
蒼井は多少調子の波があったとはいえ、この舞台を引き立てた功労者と言えるでしょう。
>黒木さんは、後ろを向いていてもちゃんと声が届くもの
声さえ通れば良いというのは、悪い言い方をすると、舞台馬鹿の考え方ではないでしょうか?
黒木さんは上手いとは思うけど、何と言うか華がないですね。華がない人には主役は無理でしょう。
蒼井がいっぱいいっぱいになりながら、演じているところに高い金を払おうという気を持たされてしまった。
舞台なんてお金にならない仕事に、人気絶頂期の若女優が意欲的に取り組む理由が理解できないけど、そういう俳優がいなくなったら、舞台は舞台ヲタだけが集う、近寄るのを躊躇うホームレス状態になるのではないかと。
実際3/30、特に夜の蒼井優は絶品だったし。

妻夫木も最初は良い意味で棒演技だと思ったが、最後の二週間は感情移入が濃厚で自分を含めて評価高かった。

同じ舞台をこれだけ観に行ったのは初めてだけど、この二人の存在がなかったら行かなかっただろうなあ。
銀粉蝶がいくら凄くってもねw
Posted by 池袋 at 2011年04月02日 21:38
> 声さえ通れば良いというのは、悪い言い方をすると、舞台馬鹿の考え方ではないでしょうか?

声さえ通れば、なんて言っていませんよ。声が伝わるのは必要にしてほぼ最低限の条件。
Posted by buu* at 2011年04月02日 21:51