2011年04月08日

風評被害とは(農水省への電凸レポート入り)

あちこちで「風評被害」という言葉を聞くのだけれど、新聞とかで語られている「風評被害」と、僕が思っている風評被害がかけ離れている感じなので、まず、農水省に電話して風評被害の定義について聞いてみた。そのまとめ。


農水省の代表に電話したら、最初に回されたのは総務課消費者の部屋。対応したのは水産安全専門官のW氏。もう、電話の話口でもあきらかにおどおどしているのがわかる。話している最中にどんどん早口になってきて、イライラしているのもわかる。「さっさと切りたい」という思いがありありと感じられる(笑)。こりゃぁ、国民への説明の窓口としては落第だな。途中で僕が「ネットで公開しますが、所属とお名前をお願いします」と聞いたら、「そちらこそどなたですか?」「マスコミですか?」「どういう方ですか?」と連発。一番最初に「ライブログの元木と申します」って伝えているんだし、「納税者として質問しています」って言ってるんだからそれで十分だろ、と思うのだけれど、消費者の部屋の回答って全部こんな感じなんですかね?

最初に「風評被害の定義を教えてください」と質問したら早速モゴモゴ。「特に決めていないのだが、科学的知見に基づいていない流言飛語などがあるおかげでものが売れない状態が風評被害だ」というので、「朝日新聞に掲載された「千葉県産の魚が風評被害で売れない」という状態は風評被害ではないですよね、これは安全性が科学的知見によって証明されていないんですから」と突っ込んでみた。すると、「農水省はこの件については「風評被害」という言葉は使っていない」というので、「では、朝日新聞の記事は、朝日新聞が勝手に間違った言葉を使ったということですか」と聞くと、「私たちはそこまで関知していない」とのこと。続けて、「大臣も風評被害という言葉を使っているが、では、その定義はないということか」と聞くと、もごもごもごもご(笑)。その上で「総務課に聞いてくれ」とのことなので、わかりました、身分とお名前をお願いします、と聞いたら消費者の部屋の水産安全専門官だそうで。じゃぁ、総務課に聞くかなぁ、と思い、「念のため今の回答を文書でください。文責をはっきりさせたいので」と言ったら、他の部署に回された(笑)。文章にするのは嫌みたいです。

#僕が元役人だからって、役人が嫌がりそうなところをわざとついているなんてことはないですよ(笑)

次に回された先は総合食料局技術課というところ。消費者の部屋は酷い部屋だったけれど、こちらはちょっとマシな感じ。

それで、「風評被害という言葉の定義を教えてください」と質問したら、例によって「科学的知見に基づかずに噂などが流れて、ものが売れなくなる状態のことです」とのこと。なので、僕が「朝日新聞に千葉の魚が風評被害という言葉が載っていたけれど、これは風評被害じゃないですよね。だって、そもそも安全だってことがわからないんだし」と聞いたら、「そのあたりの受け取り方はそれぞれです」だって。おいおい、言葉はそれぞれなのかよ。朝日新聞が勝手に風評被害という言葉を使ったから仕方がないってか?

「千葉県のデータは3月末までしかないですよね。今どうなのか、科学的データがなければ判断できませんよね。放射能が毎日垂れ流されている状態で、日々状況が変わっているんです。一週間後の魚がどういう状態なのか、科学的な評価ができないんだから、風評被害も何もないですよね。「わかりません」という状態でしょう?」と言ったら、「おっしゃることは良くわかるけれど、なんとも回答に困る」そうで。しっかりしろよ、農水省。

「大体、千葉県の市場で魚が拒否された時点では水産物について基準がなかったんだから、拒否されるのは仕方ないんじゃないですか?」と聞くと、「基準は農水省じゃなくて厚労省の管轄なので、私たちとしてはヒトコトもコメントできない」とのこと。「あぁ、縦割り行政ってことですね?」と嫌味を言ってあげたら、「そうです」とあっさり認めた(笑)。

この人達は、結局国民の安全とか、健康とかはどうでも良いわけです。管轄外だから、厚労省の言うとおりに動く。厚労省の決めた法律や通達や基準が全て。そこに書いてあればやるし、書いていなければやらない。ある意味正しいですね。目の前に死にそうな患者がいる救急車の中でも、医者じゃなければ医療行為はできないから、結果としてその患者が死んでしまっても仕方がない、みたいな論理と一緒です。多分、役人として正しい(いわゆる官僚主義ですが(笑))し、ダメなのは厚労省なんでしょう。この人達をいじめても仕方がない。

そこで、別の方向から突っ込んでみた。「基準内であっても、気分で買いたくないというのは普通の話ですよね。例えば中国産の餃子やにんにくは国産に比較して安いわけで、それは「もしかしたら何か変なモノが入っているかも知れない」と思うからですよね。安全は確認されているけれど、安全な範囲でも、食品としての価値は異なるわけです。ということは放射能でも同じです。仮に基準値が5000ベクレルとして、九州産が0ベクレル、千葉産が2000ベクレルとして、両者は食品としては妥当だけれど、消費者が九州産を選ぶのは当たり前ではないですか?また、千葉産が売れ残ったとしても、それは風評被害とは言えないのではないですか?」と質問。「個人的にはそれは消費者判断だと思うが、省としては回答不能です」と言っている。「じゃぁ、千葉の魚がちょっとでも放射能に汚染されていれば、これが売れないのは風評被害ではないですよね?」とたたみかけたら、「個人としてはそう思う」とのこと。

「個人的には」という枕詞付きではあるけれど、一応自分の考えを提示したところは評価できる。おそらく、農水省からはこれ以上突っ込んでも有益な話は出てこないだろうと思ったので、電話を切った。


さて、結局のところ、「風評被害」という言葉に定義はないことがわかった。今後、賠償金の支払いなどで重要になってくると思うし、定義がないなら政治家も気安くこの言葉を使うなよ、と思う。何でもかんでも「風評被害」で片付けられて批判されてしまったら生活者だって迷惑だ(風評被害は、要は「生活者がバカなんだよ、ちゃんと勉強しろよ」という意味だからね)。

現時点での問題点はおおよそ次のようになる。

○そもそも基準がないケースがある
→厚労省管轄
○基準はあるが、調査してないケースがある
○基準内だが汚染されている場合をどう考えるか

役人は「科学的根拠」を振り回すけれど、その科学的根拠に基づいた基準値が信用のおけないプロセスでコロコロ変わっちゃうし、その基準を良しとしても「一週間前に計測したら基準以下でした」で納得する馬鹿はいない。まず、最低限として科学的かつ客観的なデータの提示が必須なのに、水産物ではそれを十分にやっていないのが大きな問題なのだ。

BSE問題などで良く言われていた言葉に「0リスク」というのがあるけれど、放射線に関しては限りなく0に近い0はある。農産物についても、畜産物についても、水産物についても、「不検出」と「1ベクレル」の間には物凄く大きな差があるのだ。役所としてはできるだけこの差に目をつぶり、国民に放射能汚染した野菜や魚を食べさせ、少しでも被害(風評被害ではない)を小さくしたいんだと思う。その気持ちはわからないではないけれど、はっきり言って「甘い」よ。被害を被害として認識するところから始めないと、対策はできない。放射性物質を少しでもかぶっていたら、それはかぶっていないものとは違う。たとえ何の影響がないとしても、違うものは違う。そして、それは科学的に物凄く簡単に証明できてしまう。

ということで、放射能に関する風評被害の定義を考えてみた。

放射能に関する風評被害の定義案
放射能がバックグラウンドレベルと確認された商品群が市場において忌避されること


これなら(風評被害という言葉で暗に馬鹿にされている)消費者はみんな納得するんじゃないの?

基準値内の野菜や魚が市場に出ることについては別に文句はない。でも、その野菜や魚に「これは○○ベクレルです」との表記がないなら、それが売れないのは風評被害ではない。放射能レベルが確認できないんだからね。基準内の放射能に汚染された野菜や魚の価値が低くなるのも仕方がない。これは東電なり政府なり、責任者が賠償すべき話。そして、これももちろん風評被害ではない。「健康に被害が出ない程度の放射能に汚染されている」という科学的知見に基づいて、ものが売れないのだから。

参考資料1
農水産物について行政がやるべきこと(千葉の水産物はキンメダイとマアジ以外全部放射能汚染)

参考資料2
原田英男
↑こちらの方は、僕が考えるところの物凄く正しい公務員です(農水省畜産部)。前からあちこちで言っているけれど、全ての公務員がダメなわけじゃない。頑張ってやってくれている人もたくさんいます。僕は役所で働いて、そういうのを見てきました。だから、それを伝えていくことも僕の役割だと思います。官僚が全部ダメなわけでもない。農水省が全部ダメなわけでもない。ということで、農水産物について興味があるツイッター利用者はこの人をフォローしておくことをお勧めします。

参考資料3
農林水産大臣からのメッセージ(3月31日、PDF)
確かに「風評被害」という言葉は使っていない。でも、ここで約束している「正確な情報」が迅速に提供されていないのだから、魚が売れないのは仕方がない。

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