ポスドク問題とは、バイオバブル崩壊の結果である 井上晃宏(医師)
この記事は普通に良い指摘をしているので、一読しておいた方が良い。ただ、僕のブログを昔から読んでいる人にとっては新しいことは何一つ書いてないかも知れない。でも、復習や確認は大事だし、暗黙知をテキスト化しておくことはそれはそれで重要である。
バイオ系の博士が余っているのは確かだし、それがバブルのはじけたせいであることも間違いがない。僕が知っている範囲で言えばバイオバブルの一翼を担ったのは「2010年の時点でバイオ市場25兆円」という目標、予測であり、もうちょっと古くを言えば、それまで冷や飯を食べ続けていた生化学系の教授たちの頑張りの結果でもある。
バイオ市場25兆円についてはこちら参照
2010年のバイオ市場規模の持つ意味(2年前に書いて忘れてた)
僕は第4回ぐらいのライフサイエンスサミット(2004年だったはず)ですでに「2010年で25兆円は無理」と指摘した(どこかに議事録があるはず)のだけれど、最終的には2010年のニューバイオ市場は4兆円ぐらいだったようだ(非公式データで、入手元は明かせないけれど、近々統計データとして出るはず)。
結局のところ、25兆円という数字は経産省にとっても、文科省にとっても便利な数字だったわけで、これによって予算が確保され、その結果、人材が育成され、そして今になって、21兆円分の誤算が「余剰博士」という形で残っていることになる。
例えば、なんでズブズブの分子生物学系の人間だった僕がITベンチャーの社長をやっているのか、ネット・マーケティングの本を書いているのか、そのあたりを良く考える必要がある。僕はトップダウンで物事を決めていくのが嫌いな人間だから、「ライフサイエンス系の学部、大学院は閉めるべきです」という意見にはすぐに首肯しない。しないけれど、「学位をとったけれど、どうにもなりません。どうしよう」という人間が量産されてしまうよりは、確かにその方が良いかな、と思う。
バイオ系博士については「全く就職がないということではありません」といったところが、最近流行りのトーンで説明したものだろう。それでも進学するのは勝手(=自己責任)だよなぁ、とは思うのだけれど、そうとばかりも言い切れないのかな。旧帝、及び東工大などの一部の大学以外では、バイオ系博士のお先は真っ暗だと思う。この間も、東大の博士から「なんで駅弁大学の博士なんかになるんだか、意味不明ですよ。学部が東大じゃないっていうだけでも就職が困難だっていうのに」という話を聞いたけれど、全くその通りだと思う。最低限、その研究室で博士をとった学生がその後どうなったのかぐらいの調査はやっておくべきだ。直後にどこにいったのか、ではなく、今何をやっているのか、を。
ちなみに「市場25兆円」は当初は目標値。適正な政策を講ずれば、この数字になる、というものだった(当時の経産省バイオ課長は堅尾さん)。いつの間にかそれが予測値に変わってしまったことについては上記のリンクを参照のこと。記事は2005年。良い記事だなぁ(笑)。