放射線の健康被害についてはまだ結論が出ていません。10年も前にはなりますが、例えば英国BBCラジオで討論の番組があったようです。
「放射線のしきい値なし直線仮説の是非が討論される」
放射線に対するスタンスはしきい値なし直線仮説(以下、LNT仮説)を支持するかしないかで変わってきます。ある人に言わせれば「この考え方が合理的」だし、またある人に言わせれば「ほぼ否定されている」となるのですが、結論は出ていません。例えば保守的な立場を取る小出裕章さん(京都大学)はLNT仮説を支持していますし(悲惨を極める原子力発電所事故―終焉に向かう原子力(第11 回)講演、http://chikyuza.net/n/archives/9063)、電中研原子力技術研究所はLNT仮説に懐疑的なスタンスです(LNT(しきい値なし直線)仮説について、http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/lnt.html)。
「LNT仮説とか、わけわかんねぇ」という人も多いと思いますから簡単にその考え方を書くと、
LNT仮説支持派
どんなに少量であったとしても放射線を被曝するのは良くない
LNT仮説否定派
ちょっとぐらいの放射線なら浴びても大丈夫
になります。LNT仮説の支持、不支持については、背後に色々とお金やら何やらが動いているフシがあって、有識者と言われる人たちの中でも中立な意見というのが見当たりません。というか、これに結論を出すにはデータが不足しているということのようです。そんな中で、無理矢理にでも「どっちにするのか」を決めることが非常に重要です。ところが多くの人が、このスタンスをきちんと決められないでいるようです。それは個人だけでなく、国も、です。
例えば、LNT仮説を支持しないと決めるのであれば、現在の生産地規制のようなものはあまり意味がありません。例えば牛乳の規制値が300ベクレル/キログラムで、目の前に500ベクレル/キログラムの放射能であれば、どこかよそから別の牛乳を等量だけ持ってきて2倍に希釈してしまえば、250ベクレル/キログラムになります。これはお米でも一緒だし、水でも一緒です。大事なのはどれだけの放射能なのか、ということで、目の前にある食べ物の放射能が基準値を超えているのであれば、基準値以下になるまで薄めてしまえば良いだけのことです。ですから、このスタンスに立つなら、きちんと生産物の放射能を測定し、基準以下になるように調整すれば良いのです。
一方で、LNT仮説を支持するのであれば、放射能に汚染されているものは一切食べるべきではありません。ただ、そうは言っても今関東のスーパーにあるものはほとんどが汚染地域からの農産物です。先ほどスーパーに行って見てみましたが、売っているネギは埼玉産と千葉産でした。これらは放射能に汚染されている可能性が高いと言わざるを得ません。もし、どうしても嫌だというのであれば、関東ではネギを食べることは非常に難しくなります。「それなら、ある程度のリスクには目をつぶります」ということになると、その際に重要なことは、そのネギがどの程度汚染されているのか、ということになります。
現在、国が見せている方針は、LNT仮説を支持している部分と、支持していない部分が混在しています。もし支持しないなら、上に書いたように、キャベツやほうれん草のような、大きくて、あまり加工せずに食用にする食べ物以外は、混ぜたり、希釈したりすることによって食用に適したものにすることができます。牛乳も、米も、よそのものを混ぜてしまえば良いだけですし、肉ならハンバーグとか、餃子とかに加工し、その際に非汚染の食材をブレンドすれば作為的に基準値以下にすることができます。
しかし、現状、国は一定量以上放射能に汚染したものは市場に出回らないようにしています。これは取りも直さず、国がLNT仮説に基づいて政策決定していることを示しているに他なりません。その場合は、農作物がどの程度汚染されているのかが重要になるはずなのに、それがなされていません。今、スーパーで農作物を見ても、その商品が何ベクレルなのかについては一切の表示がありません。わかるのは、「政府の基準を満たしている」ということだけです。LNT仮説を支持しないのであれば、「一定の基準以下の汚染にとどまっている」ということを以て市場に出ていることは構わないのですが、国はLNT仮説を支持しているではないのか、ということになります。
要すれば、国は基本的にLNT仮説を採用しておきながら、都合の悪いところだけLNT仮説を無視しているのです。こういうことを日本では「いきあたりばったり」とか、「いい加減」とか、「非論理的」などと言うのですが、民主党がそういう体質なので仕方がありません。
さて、国がこういういきあたりばったりな姿勢の場合、国民はどうしたら良いのでしょうか。指針は簡単です。まずは、LNT仮説を支持するのか、しないのかを決めましょう。「えええ、そんな難しいことを?」という人にはヒントを差し上げます。健康を重視するなら支持、経済性や利便性を重視するなら不支持です。ちなみに僕は支持します。
LNT仮説を支持しない場合
もう、怖いものは何もありません。厳密には、「支持するにしても、ラインをどこに引くかという問題がある」という意見もありうるのですが、幸いにして今市場に並んでいるものはかなり厳しめの基準に基づいているようです(ただし、主観)。それに、データがないんだから見分けもつきません。国が大丈夫と言っていることですし、もう福島産だろうが、茨城産だろうが、もりもり食っちゃいましょう。「これ、大丈夫なのかな?」などと一々気にすることは間違いです。ただちに健康に影響が出ることはありません。将来、「これは○○ベクレルです」と記載されるようになったら、そこでもう一度、「これはどうなんだろう」と考える必要が出てきますが、それまでは目をつぶって全部食べちゃうしかありません。
LNT仮説を支持する場合
福島県産、茨城県産はもちろん、千葉県や埼玉県の野菜も危険です。東京都、神奈川県、群馬県もダメです。宮城県もダメっぽいです。このあたりの野菜は食べないほうが身のためです。汚染状況はさっぱりわかりませんので、農作物の産地をチェックして、これらの地域のものだったら全部購入を見合わせましょう。「これ、大丈夫なのかな?」などと考えるのは意味がありません。全部ダメなんですから。将来、「これは○○ベクレルです」と記載されるようになったら、そこでもう一度、「これはどうなんだろう」と考える必要が出てきますが、それまでは全部購入を控えましょう。もちろん僕はこれらの地域の食べ物は一切購入していません。