劇団「秦組」 vol.4 『らん―2011New version!!―』
初めて観る演出家、1人も知らない役者、初めて行く箱、と、予備知識ゼロでの観劇。こういうことって実は滅多にない。大抵の場合、一人ぐらいは贔屓の役者さんがいたりするものなのだ。なんか、サイスタのレッズ戦の完全アウェイ状態にも似ている。
吉祥寺ですら行ったのは10年ぶり以上だと思う。とにかく滅多にいかない場所である。いい加減な目星をつけて歩いていたら、井の頭公園に着いてしまった。やばい、ご飯を食べている時間すらない。軌道修正して、なんとか前進座に到着したのは開演の7分前。劇場の前ではオタクっぽい男子が「チケットあります」のダンボールを手にしていてちょっと微笑ましい。ダンボールじゃなくて、せめてiPadにすれば良かったのに、と思う。
前進座の中に入ってみると歌舞伎座のような花道があって、うわー、こんな難しい箱でやっちゃうんだ、すげえなぁ、というのが開演前の感想。この手の、客の視線が安定しない箱の演出は凄く難しそうに見える。僕の座席は前から3列目で、花道のすぐ横。こ、これは・・・なんか、怖い。客席は演劇に似合わず男性客が結構多く、かわい子ちゃん目当ての人も結構いる様子。一方で僕のような一見さんはあんまりいないんだと思う。
#そういえば、お約束の笑いがあったようで、僕は笑えないのにみんなが爆笑、というのが何度かあった(笑)。
さて、開演。いきなり大量の役者さんが山ほどいて、その向こう側でなにやらゴソゴソとやっている。どうやら出産シーンのようだ。が、花道にいる役者さん越しなので良く見えないのと、セリフが聞き取りにくいことがあって、良くわからない。えっと、誰が生まれたんですか?男の子だって言っていたから、主人公かな?そのあとも、大量の役者さんたちが出て来たり、花道後方で重要なシーンがあったりで、「うわ、役者さんたち、覚えきれるかな?」と心配になった。ところがなぜかそんなこともなく、次々と役者さん達の顔と役名が頭に入ってきた、などということはもちろんなくて、案の定、結構苦労した。この辺りはビジターはちょっと不利。知っている役者さんが数名でもいてくれると随分と違うんだけど。
しかしそれでもなんとか、開幕30分ぐらいでおおよその勢力分布と配役が把握できて、それからは物語に入っていけた。入っていけたのは良いんだけれど、僕が気に入ったのは月影というお姉さんで、この子はちょっと脇役。声量もそれほどないんだけれど、金属質の声質が僕の好みにぴったりで、混沌としたカオスの中でこの子を気に入ってしまったものだから、「あ、でも、この子は主役じゃないんだよなぁ」と修正する間もなく、僕にとっては「らん」ではなく「つきかげ」になってしまった。
他にも、らんのお父さん替わりの男優さんとか、月影のお兄さんの男優さんとか、頑張っている人はいたけれど、まぁ男優だからとりあえず僕のメインディッシュにはならない。そういうわけで全てのシーンを月影中心で観ることになってしまった。してみると、主役の女の子はそうだなぁ、もうちょっと髪の毛が短いほうが良かった。細かい演技はうーーーん。それよりも体のキレが良くてびっくりした。志穂美悦子か、みたいな。主役の男の子はちょっと声量とか滑舌に難有り?格好良いし、動きにはキレがあるんだけれど、舞台よりも映像で映えるタイプ。でも、箱が極端に馬鹿でかいわけじゃないし、ストーリーもわかりやすいので、多少セリフが聞き取れなくても問題なかったりはする。あと、殿様はガクトにやって欲しかったかなぁ。
えっと、まだ今日が初日の舞台なので、ネタバレしないように、ネタバレ部分は追記に書きます。それで、ネタバレなしの感想。
プラス評価部分は1.月影の子がナイス、2.舞台を上手に使っていた、3.音楽もナイス、4.殺陣の迫力は申し分なし、の4つ。マイナス部分は1.人数多すぎ(できればペラ一でも良いので、役者と配役の一覧が欲しかった)、2.ちょっと親切すぎ、3.月影が主役じゃないこと、かな。評価は☆2つのところ、月影ちゃんにおまけして☆2つ半。(満点は☆3つです)
やっぱり、完全ビジターって楽しいよね。
【出演】矢島舞美(℃-ute)、中村誠治郎、丸尾丸一郎(劇団 鹿殺し)、
根本正勝、藤沢大悟、杉本有美、工藤里紗、清水宏、ほか
【日時】2011年5月22日(日)〜29日(日)
【劇場】前進座劇場(吉祥寺駅より徒歩12分)
【チケット】全席指定 前売5,500円 当日6,000円 未就学不可
ということで、バレが嫌な方はここでさようなら。詳細は追記に書きます。
さて、追記。最初に書いておくと、この芝居の作・演出を手がけている秦建日子氏はインターネット上の知り合い。知り合いなんて書くとおこがましいのだけれど、地震のときに作った「買い占めするならカネ送れ」の動画の拡散に一役買っていただいた方で、簡単にいえばお世話になった方、頭が上がらない方です(笑)。でも、バイアスはなるべくかけないように書きます。
ということで、このあたりから演劇素人が言いたい放題になってきます。すいません。まず、思ったのはちょっと人数が多すぎ、ということ。やっぱり、覚えきれないし、ここまでの人数が必要だったとは思えない。2/3ぐらいに整理したほうがすっきりすると思う。登場人物が多すぎるので、インチキをする登場人物(この意味は芝居を観ればわかります)が限定されてしまい、「正直に、筋を通して生きる」という生き方の対照が甘くなってしまったところがあると思う。おかげでラストの良いセリフがふわふわと空中に浮いてしまった。でも、このあたりは「大きい舞台を経験させたい」とか、色々な事情もあるだろうし、ま、いっか、という感じではある。あくまでも、「いや、皆さんのこと、覚えきれませんでした」ということ。
次に、全体のスピード感が一定で、緩むところがないのがちょっと気になった。話が同じテンションでずーーーーっと最後まで突っ走ってしまうのである。ところどころ、スピードを落としたら(例えば歌舞伎のように)、メリハリが出るのになぁ、と思った。ストーリーだけじゃなくて、殺陣とかも。確かに迫力はあったんだけれど、ここもちょっと抜くところがあっても良かったと思う。たとえばスローモーションとかを入れてみても良かったんじゃないかなぁ。いや、良くわかりませんが(汗)。
芝居の作りが物凄く説明的なのは、これは客層を考えると仕方のないところなのかな。最近は映画でも、何でもかんでも説明しちゃって、もうちょっと客の脳みそを信用しろよ、と思う場面があるのだけれど、その一方で福本なんとかさんという映画評論家を挙げるまでもなく、「えええぇぇぇ、そんなことも読み取れなかったの?」というケースが多々あるようで、とにかく観客に対して親切な作り。例えば子供のシーンとか、一々説明は要らないし(例えばライティングをセピア色にするとか、服装を工夫するとか・・・・)、やるとしても最初だけで良いんじゃない?とか思わないでもない(いや、繰り返すことによってお笑いにしているんだけど)。あと、いくつかの謀り事も、「ごにょごにょごにょ」「おぬしも悪よのう」という場面がきちんと作ってあったりして、手取り足取りの作りになっている。このあたりは好みが分かれるところだと思うけれど、演劇が好きな人だと「うーーん」と思うケースが多いと思う。僕とかは今回は完全ビジターだったからこれでもオッケーだったけれど、キャラメルボックスよろしく、過剰に親切だとすぐに飽きられてしまうリスクもあると思う。いや、でも、何でもかんでも説明しているわけでもないのです。やっておくべきところが抜けちゃっていた部分がなきにしもあらず。例えば「おい、イタチ!」みたいな感じで、それぞれの役者の役名を呼んでくれると分かりやすくなるのになぁ、とか。
ということで、まとめると、人数多すぎ、全体のスピードがちょっと単調な感じ、やや説明過多、主役はつきかげ、ぐらいだろうか。
一方で、良かった点(先に書けって?スイマセン、根がネガティブなので、ついつい気になったところから入ってしまいます)。一番最初に書くべきことは、月影ちゃんが可愛いってこと。死んじゃう(いや、僕が)。AKBとか、このレベルの子はいないんじゃないの?ちゃんと見たことないけど(笑)。ヘアカットJPのパンフレットのモデルに是非使いたい。もちろんそんなお金はないので実現しないのですが(笑)。
それから、この「前進座」という箱は諸刃の剣で良いところもあるし、難しいところもあると思うのだけれど、舞台全般がセリフよりも役者の躍動感に主眼がある作りなので、メリットのほうが多かったと思う。真横で展開されるちゃんばらは「うわーーーん、怖いよう」とかなりビビるぐらいに迫力があった。役者の声の通りはややばらつきが大きく、ここよりも大きな箱でやるのはちょっと難しそうだけれど、体は総じてみんな良く動いていたと思う。主役の女の子も冒頭のぶりっ子シーンは今ひとつだったのに、ラストの殺陣は迫力があってかなり良かったと思う。僕は月影のほうが好きだけど。
あと、もっときちんと書いておきたいのは音楽。日本の映画と洋画の一番の違いはBGMだと思うのだけれど、洋画は基本的にずーーーっと音楽がなりっぱなし。気がつくと音楽が鳴っている。一方で邦画は無音の状態が結構ある。さて、この芝居は・・・というと、結構な頻度で音楽がなっている。この点は洋画的。ところが、そこで使われているのが三味線なのである。他にもサックスやピアノが使われているのだけれど、何よりも印象的なのが三味線。へぇーー、三味線って、こんなに表情が豊かな楽器なのかぁ、と驚かされる。日本人も、もうちょっと三味線の素晴らしさを味わったほうが良いと思う。僕も今日初めて味わったけれど(汗)。すごいね、三味線!!そして、その三味線が全く違和感なく舞台に溶け込んでいたのが凄い。この部分だけでチケット代の元は取れると思う。
役者さんだと、らんのお父さん(くじら?)、石影、ナズナにハコベ、殿様の妾の二人(特に髪の黒いほう)が良かった。脇役がしっかりしていると舞台がしまる。
でも、やっぱり月影だよなぁ。あれで、徹頭徹尾、女ロイエンタールみたいな感じで演出してくれたら言う事なしだった。ラストの方でちょっと緩んだ感じだったのが玉に瑕。あの、殺陣でちょっと劣勢になったあたり。あぁ、金属質の声、良い。
チケット代は前売り価格で5500円。これはリーズナブル。演劇はこの位の価格で観ることができると嬉しい。スケジュールさえあえば、オペラグラス片手にもう一度観に行っても良いと思う。観るのは主として月影だけど。
#ところで、℃-uteって、どきゅーと?どきゅーん?なんて読むんだろうね?
Posted by buu2 at 02:02│
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℃-uteは、「キュート」と発音するそうです。
> ℃-uteは、「キュート」と発音するそうです。
おおお!!!
すると、Cの左上にある○の立場はどうなるんですかね?パンストだと思ったらハンストだったとか、そんな感じでちょっと立場ないですよね。
もしかしたら「ドーテー」かな?とも思ったんですが、女の子にドーテーもないですしねぇ。「ドーシテー」じゃ意味不明だし。そうか、○は無視か・・・・。
でも、主役の子、可愛かったですよ。もうちょっとシリアスな役も見てみたいですね。とはいえ、僕は月影派ですが・・・・。