2011年05月29日

人間失格

人間失格 [DVD]

太宰治が主人公の心の動きをじっくりと書き込んだ小説を2時間の映画に押し込むのは凄く難しい。悲しみとか、怒りとか、そういう分かりやすい心の動きはともかく、ちょっとした動揺とか、ふとしたきっかけによる絶望感とか、こうしたものを映像で表現するのは凄く難しい。だから、その世界観をどこまでスクリーンに押し込むことができたかが勝負。そして、この監督は勝利したと思う。

ひとつのクライマックスである良子との関係の描写で顕著なのだけれど、観る側にはどうしてそうなったのか、ほとんど情報が与えられない。原作でもこのあたりはかなり曖昧だけれど、映画ではそれ以上である。ただ、どうしてそうなったのかはそれほど問題ではなくて、葉蔵がそれを受けて何を感じ、どう反応したかで十分ということなんだろう。「映画だから、そこを丁寧に描く」という手法もありだったと思うけれど、この映画はそのあたり、原作に忠実だったと思う。

普通に考えれば、太宰治の代表作を読んでいないなど、日本人としては考えられないことだ。しかし、この映画は、原作を読んでいることを前提に、その世界をスクリーンに押し込んだという感じではない。逆に、太宰を読んだことのない無教養な人間に対して、「きちんと理解したければ、映画を観てから小説を読め」というメッセージに見える。ただ、それだけで映画を作ってしまうと、あまりにも救いがない。没落していく中で、酒に溺れ、常に現実から逃げ、やがて薬に頼り、最後はキチガイ扱いされて田舎に送り込まれる。親戚からは体よく厄介払いされ・・・・という感じで進んでいくのだから。そんな中に、中原中也を入れたのはなかなかに面白いアイデアだったと思う。彼を物語から退場させるやり方はちょっとどうかと思ったけれど。映画単独できちんと完結しているし、小説を「また読んでみよう」という気にもさせる。内容をぼんやり憶えている状態で映画を観て、もう一度読書をしてみて、そして仕上げでもう一度映画を観る。これがおすすめ。

出てくる女優たちがなかなか好演している(それにしても小池栄子は大きな目をキョロキョロさせる役が多いよね)し、主演もジャニーズ系とは思えない健闘ぶり。音楽もしっとりしていて雰囲気が良いし、画面もクリアである。映画としては非常にクオリティが高かったと思う。人間失格は凄く読点の多い文体で書かれているけれど、その読点の雰囲気までもが感じられてくるような気がした。

ちょっと甘いかも知れないけれど、☆3つ。