「富士山」でこのブログを検索するとすごくたくさんのエントリーが引っかかってくる。でも、まだ書いてなくて、だけど語っておかなくちゃならない富士山ネタがひとつある。このブログは僕の人生のストックだから、やっぱり、書いておく必要があるはずだ。
僕は、富士山の山頂まで登ったことが一度ある。それは中学校2年生の夏休みだ。おじさん、おばさん、母、いとこなど大勢で、富士山に星を見に行った。流星群でも来ていたのだろう。ところが、当日は曇りで、星が見えなかった。
僕は、「これじゃぁ、何をしに来たのかわからない。せっかくだから、富士山に登ろう」と言い出した。三つ子の魂百までとは良く言ったもので、僕は子供の頃から言い出したらきかない人間だった。それで、いとこ三人や知り合いのおじさんと、夜中の富士山を登り始めた。ところが、6合目まで来たところで、他のみんなは「もう疲れたから戻ろう」と言い出した。僕は、絶対に頂上まで行きたかった。
「頂上まで登ろうよ」
すると、みんなは、「じゃぁ、一人で行きなよ」と言った。「本当に一人で登っちゃって良いの?」と僕は確認した。彼らは「いいよ」と言って、山を降り始めた。あたりまえだけど、彼らは「どうせ一人でなんか登れっこない。水も食べ物もお金もないんだから」と思ったに違いない。確かに、水も食べ物もなかった。なんの準備もしていなかったのだけれど、お金だけは、1000円札を一枚、持っていたのだ。これが彼らの計算違いだった。
僕は、一人で山を登り始めた。山頂で売っている、ガンバレ棒を買うために。途中、8合目あたりで明るくなってきたけれど、カメラも持っていないし、そもそも曇だ。ご来光をおがめるわけでもない。僕は一目散に山頂を目指した。9合目を過ぎ、喉も渇き、お腹も空いたけれど、ガンバレ棒の値段がわからないので、何も買うことができなかった。山頂まで行ったのに、お金がなくて棒を買えなかったら最悪だから。
そして、僕は小雨の降る山頂に立った。その間、一切、飲まず食わずだった。そして、山頂で売っていたガンバレ棒は、1000円だった。ぎりぎりセーフ。僕は、山頂まで登った証明を手に入れた。ただし、ふらふらだった。カメラもないし、一人ぼっちだし、天気は曇りで一面真っ白だ。ガンバレ棒を買ったら、もう他にやることがない。だから、山頂にいた時間はわずか5分ほど。すぐに下山を始めた。もう、お金もないのである。持ち物は、1000円札と引き換えに手に入れたガンバレ棒だけなのだ。
当時はちょうど8月に大きながけ崩れがあって、10人以上が亡くなっていた。それで、下りのルートは通常よりも長い道のりになっていた。そこを僕は一人で降りていった。途中、中学生の女の子を3人連れた中学校の先生に話しかけられた。彼はプロレスの大ファンだった。僕は、クラスメートで、今はNHKで解説員をやっている友井秀和君の影響で、結構プロレスを観ていた。そういうわけで、二人で「スタン・ハンセンの強さは異常だよな!」「ウェスタン・ラリアットは半端じゃない」などと話しながら山を降りていった。途中で先生は僕にアメをくれた。おかげで、エネルギーも補充できた。加えて、彼は僕にこっそりと耳打ちしたのだ。「三人の女の子のうち、どれが良い?一番気に入った子にキスさせてあげるよ」。今だったら大問題になりそうな発言だけど、おかげで僕はさらに元気になった。
先生たちは駐車場が違うということで、5合目と6合目の間で別れた。そこからは一人だったけれど、距離はそれほどでもない。ガンバレ棒を持って駐車場まで辿り着くことができた。5合目まで戻ったときは、もう15時ぐらいだったと思う。親戚たちは心配しすぎて怒る気力もなかったようである。いとこがガンバレ棒に書いてある「富士山頂」という焼印を見て、「本当に登っちゃったんだ」とつぶやいたのを覚えている。
飲まず食わずでも富士山に登れることを僕は知っている。だけど、真似することはお勧めしない。今振り返ってもアホだなぁ、と思う。だけど、1000円を持っていたのに、食べ物も飲み物も買わなかった根性だけは、凄かったなと思う。
あの、キスの約束はどうなっちゃったんだろうなぁ。さすがにもう時効か・・・。