映画を観たら面白かったので、原作も読んでみた。
複数(メインは5つぐらい)の場面がほぼ同時並行的に進む構成(一部、事後の聴取の議事録のようなものあり)なんだけれど、そこにのりしろをつけているところがちょっと面白い。
九州で起きた殺人事件の、被害者、犯人、被害者の家族、被害者の友達、犯人の家族、犯人の恋人あたりをじっくりと書きこむことによって、犯人の人物像を明らかにしていく。映画に比べると原作はかなり説明的ではあるけれど、多分これ、宮部みゆきが書いたら最低でも1.5倍になると思う。どちらが良い、というわけではないけれど、ちょっと説明不足な部分もあると思う。特に犯人の実母とか。犯人の周辺、被害者の周辺をしっかり描くことによって犯人と被害者を浮き彫りにしていく、という手法なので、この分量だとやや食い足りないかな、と思わないでもない。
一方で、説明しすぎな部分もある。特に、なぜ光代の首を絞めたのかとか、母親にお金をせびったのかとか、このあたりは饒舌過ぎる。割とタイトな記述の中でこういったところが饒舌なので、そこが物凄く強調されてしまい、逆に出来過ぎな感じになっていると思う。もうちょっとぼかすか、あるいは長文の中に埋め込めたら良かったのに、と思う。
一々映画との相違を挙げてどちらが良い、悪い、と論じることはしないけれど、2点だけ。祐一と光代の出会いの部分は小説の方が、ラストは映画の方が良かった。それと、小説と映画において共通で違和感があったのは、事件の夜の出会いの偶然。福岡がどれだけド田舎なのか知らないけれど、「そんなことってあるのかよ!」っていうところ。物語の凄く重要な部分で普通ならありえないような偶然が起きてしまうので、どうしても入り切れない。その偶然が必然であるように見せるような工夫が必要だったと思う。
小説のラストは悲し過ぎる感じ。犯人の思惑通りではあるけれど、もうちょっと救いがあっても良かったと思う。やはり、女性の著者が女性の登場人物に厳しいように、男性の著者は男性の登場人物に厳しいのかも知れない。
読みやすい文体で、あっという間に読めてしまう。映画と小説を両方で初めて全体像がクリアになる感じ。映画のキャストがどれもぴったりなので、映画を観てから小説を読むのが良いかも知れない。小説単独での評価は☆2つ。