原作未読で公開前に先行鑑賞。
この映画を楽しむためには園子温監督の演出を経験していることが必須だと思う。「愛のむきだし」と「冷たい熱帯魚」の2作ぐらいはレンタルして予習しておくと良いと思う。また、冷たい熱帯魚ほどではないけれど、生理的に嫌なところをついてくるところがあるので、肉体的、あるいは精神的な弱いものいじめを目のあたりにするのが苦手な人には向かないと思う。
しかし、その点をクリアしていれば、この映画は抜群に面白いと思う。僕に関して言えば、冷たい熱帯魚はグロすぎて受け付けることができなかったけれど、この映画はあそこまでグロくないので、十分に許容範囲。映画のメッセージも明確だ。
最初、違和感を受けるのは画面いっぱいに広がる瓦礫の山で、「これはどこのゴミ処理場?」みたいな感じなのだが、すぐにそれの意図するところもわかる。
役者さんは園子温作品ではお馴染みの顔ぶれが脇を固めている。ある意味で三谷幸喜作品にも似た「ファミリー」の雰囲気があるけれど、三谷ファミリーほどの内輪受け感はない。そして、主演の二人の子供たちの演技が素晴らしいと思う。園子温監督の演出に慣れていないと、映画全体が「下手な演技」に見えてしまうかもしれないけれど、この映画の役者たちは、あえてそういう演技をしている。この雰囲気が園子温テーストのはず。
映画の最大のポイントは、「結末がどうなるか、最後までわからないこと」である。例えばドラゴンボールのように、「なんだかんだ言っても、最後は悟空が勝つ」といった予定調和の部分がない。細いロープの上をよろよろしながら綱渡りして、向こう側を目指していく。その危なっかしさが最大の魅力と言っても良い。だから、余計なレビューは読まないほうが良い。全体像がわかってしまったら、面白さは激減する。
繰り返しだけど、この映画を楽しむ上で必要なことは園子温監督の作風を知っていることだと思う。以前の作品を観た上で、これを観るべきかどうか、考えれば良い。もしかしたら「過去の作品はダメだけど、これはいけてる」という人もいるかも知れないし、あるいは冷たい熱帯魚が大好きな園子温ファンが「こんなのは生ぬるい」と感じるかも知れないけれど、そのあたりは自己責任で。
今を生きる日本のクリエイターならではの作品に仕上がっていると思う。僕が選んで良いなら、来年の日本アカデミー賞の主演男優、主演女優賞は多分この作品(まだ来シーズン分は始まったばかりだけど(笑))。