2011年12月25日

浄化されないネット情報の危険性(アゴラ投稿)

アゴラに投稿した文章ですが、時間をおいてこちらにも同じものを掲載することにします。以下、そのまま転載。


「出身大学が農学部」でご自身に「生物学の素養がある」と言っている方が「ITに詳しく「かつ」生物学に詳しい人材に、なかなかお目にかかれない」と嘆いているのをみるにつけ、「あぁ、かれこれ10年近く、バイオ畑出身のITベンチャー社長としてブログを書いてきているけれど、私もまだまだなんだなぁ」と痛感する。

遺伝子組換え技術について --- 重道 潔

そこで、これまでの自分を反省しつつ、「バイオの視点から見ると、ネット情報の危険性はこんな風に分析されます」という一例を書いてみたい。

まず、今朝見つけたつぶやきはこれである。

2011/12/24 06:30:56
なんの表示も売り場にはない、ジャスコPB商品の「遺伝子組み換え」食品群 http://t.co/P9Y7LO1L http://t.co/mEY8vcZQ


私の元々の専門はバイオテクノロジーで、先月末には「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」という本も出した。最前線でバリバリ研究しているわけではないが、遺伝子組み換え食品の現状にはある程度明るいので、このつぶやきを見てすぐに違和感を持った。そこで、リンク先に行ってみると、そこはCeronだった。ここは、はてなブックマークやツイッターのつぶやきをベースにまとめられたニュースサイトで、話題になっているニュースが抽出される。では、その「ネットで話題になっているジャスコの遺伝子組み換え」とはなんなのか、リンク先を見てみることにした。

詩とコギト: ジャスコPB商品の「遺伝子組み換え」食品群

この記事についているつぶやきを見ると、ジャスコに対する悪口ばかりである。書かれているのは2011年10月から11月にかけてのものが多いようだ。元になっている記事にアクセスすると、こちらだった。

ジャスコPB商品の「遺伝子組み換え」食品群

この記事は、私が「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」を書く動機付けになったもので、本の「はじめに」でも触れている。

「遺伝子組み換え食品との付き合い方」から「はじめに」ノーカット版

簡単にまとめてしまえば、

ジャスコ・イオンのプライベートブランド商品「トップバリュー」は、必要のない「遺伝子組み換え不分別」を、わざわざ消費者のために表示しているに過ぎず、他のメーカーはそれをやっていないだけ。ところが、他のメーカーの商品にも遺伝子組み換え農作物由来の添加物が含まれていることを知らない人は、トップバリューのことを勘違いして批判している。


ということだ。少なくとも、ジュースに入っている果糖ぶどう糖液糖は、米国産遺伝子組み換えトウモロコシから作られている可能性が非常に高いことがわかっている。

ここで、件のブログの記事の日付に注目してもらいたい。2010年4月28日で、もう1年半以上前の記事なのだ。遺伝子組み換え食品の現状を語るにはあまりにも古い情報と言える。

遺伝子組み換え食品の情報をツイッターで見ていると、この手の話が非常に多い。「アルゼンチンでは遺伝子組み換え農作物を作付けした農民が苦しんでいる」というつぶやきを見て、そのリンクをたどると5年以上前の記事だった。その後もアルゼンチンでは毎年遺伝子組み換え農作物の作付けが増大し続けている。本当に大問題となっているのであれば、なぜ遺伝子組み換え農作物の作付けをやめないのか。あるいは、カナダの農家が遺伝子組み換え作物と自然交雑した農作物を栽培していたら特許侵害で訴えられた、というつぶやきもあった。訴えられたことは事実だが、2004年にカナダの最高裁で判決が出ていて、裁判所は「自然交雑ではない」との判断を示している。つぶやきのトーンは「濡れ衣で酷い」という感じだが、実際は全く違う。

ちょうど今日、岡田斗司夫氏がツイッターでこんな風につぶやいた。
2011/12/24 02:42:25
岡田斗司夫「ネット依存はアル中と同じ…“ネットに真実がある”と叫ぶ奴は泥酔状態」
http://t.co/nwlCwYn8 →この記事の元になったインタビュー・ノーカット版をブログにUPしました→ http://t.co/48MiuHkG #otakingex #nicoron


遺伝子組み換え食品に関するネット情報を見ていると、全くそのとおりだなと思うのである。古い情報が上書きされず、ツイッターで取り上げられ、増幅される。あたかも「がん」の再発のようだ。

元木 一朗

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