2012年01月06日

グラフを利用した印象操作の事例(アゴラ投稿済み)

昨年の暮、河野太郎さんが自身のブログである資料を紹介していた。

年金制度を抜本的に考える会資料(河野太郎公式ブログ)

紹介されていた資料:「年金財政の現状と現実的な抜本的年金改革」(PDF)

私自身はかねてから河野太郎さん支持を表明しているし、年金問題についても河野太郎さんの主張に反対する部分はほとんどない。しかし、この資料を見て、ちょっとこれはどうなのかな、と感じた。全く本質ではないし、資料の性質を考えれば、目くじらをたてるようなことではないことも、百も承知なのだが、それでも釈然としない。その理由は冒頭のグラフにある。

河野太郎さん紹介資料


このグラフの左のメモリに注目して欲しいのだが、X軸とY軸の交点におけるY軸のメモリが0兆円ではなく、100兆円になっている。これによって、このグラフは左の濃い編みかけの「現状」の減少が強調される仕組みになっている。こうしたイメージ操作はフェアではないし、もし見やすくするにしても、ニョロニョロを利用して、Y軸の交点の数字は0兆円にすべきである。この資料では、このグラフの直後に交点を0兆円で作成したグラフが登場することもあって、悪意をもってミスリードを狙ったものではないと思うのだが、やはり、グラフを作る側は数値に対して謙虚である必要があると思う。

グラフによるイメージ操作の典型例として、「総統閣下はお怒りです」でも取り上げた、産経ニュースに掲載されたグラフを紹介したい。なお、読者の方からグラフの処理が複雑で良くわからないという意見があったので、本をご購入いただいた方は当該ページを参照しながら以下を読んでいただきたい。

出典:1960年代と同水準、米ソ中が核実験「健康被害なし」 東京の放射性物質降下量

上記の記事からは何の註釈もなくグラフが削除されているが、下記のグラフがもともとこのニュースに掲載されていたものである。

セシウム元グラフ


左のメモリが対数になっていることに注目して欲しい。これは、片対数グラフを悪用して、見るもののイメージを操作しようと企図したトンデモないグラフである。このグラフがどんなにインチキなのか、グラフを通常のグラフに再構成して説明してみたい。

まず、このグラフはセシウムとストロンチウムの数値が混在している。今回のデータはセシウムだけなので、ストロンチウムを取り除くことにする。原発から放射性物質が排出された場合、セシウムの降下量はストロンチウムの3倍ということが知られているので、目測で毎年のセシウム降下量を推測し、赤丸で表示してみる。

セシウム毎年


今回は細かい数字で検討してもあまり意味がないので、5年ごとに平均することにする。本来は片対数グラフであることを考慮する必要があるのだが、ここでは単純に5年ごとに赤い丸を平均して青丸で表示する。

セシウム毎年→5年


ちょっと乱暴な処理だが、青丸だけを表示してみても、元のグラフからはそれほど逸脱していないので、このまま処理を続けてみる(後になればわかるが、ここで細かいことにこだわってもあまり意味がない)。

セシウム5年


さて、このグラフから、元のグラフを取り除いて、青丸だけでグラフを見てみる。

セシウム5年完成版


このグラフのY軸のメモリを対数から通常の数値に目算で変換した上で、東京都健康安全研究センターが発表した3月のセシウム137降下量(6557.9ベクレル/平方メートル)をあわせて表示してみる。

完成版


こうしてみれば一目瞭然、2011年の3月には、過去に例を見ないほど大量の放射性セシウムが東京に降り注いだことがわかる(ただし、5年ごとのデータはその前後2年ずつ合計5年間における月平均、2011年3月は単月の数値である)。

産経ニュースは、本来はこうなるべきグラフを、冒頭で紹介したようなグラフで表示し、「過度な心配は不要だ」と報道した。Y軸のメモリが対数になっている片対数グラフだという点に気がつかなければ、こうした事実に気がつくこともない。

私たちが日頃触れている情報は、こうして歪められたものが決して少なくない。テレビや新聞で、「演出」は日常的に行われているのである。今年も、各種データを見るときには不自然なバイアスがかかっていないか、常に注意しておきたいものである。

ところで、こちらは12月31日の朝日の写真である。今の季節、私の家からは、スカイツリーの向こう側から朝日がのぼってくる。この日は地平線近くに雲がかかっていて、非常に幻想的な景色になった。自然には余計な演出など、必要ないようだ。ただ、産経ニュースならこの写真を1月2日の朝刊に掲載しても不思議ではない。もちろん、「元旦の朝日」などとキャプションをつけたりはしないで、である。2日の朝刊に掲載しただけで、いつの写真なのか説明しないなら、嘘ではない。

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