註釈:遺伝子組換えパパイヤ
詳細は「姿なき遺伝子組み換え食品」参照。
ヒロッコ:食べなければいいんじゃないの?
ノブポン:老婆心ながら、遺伝子組換えと言っても、科学的には安全なのではないですか?
モリタック:でも、絶対に安全とは言えないでしょ?
註釈:絶対に安全
食品で良く言われるのが「ゼロリスクはない」。だけど、もちろんリスク軽減は可能。どのくらい軽減できるかはケースバイケース。
ヒロッコ:絶対に安全とはもちろん言えないけど、そんなことを言っていたら、何も食べられないわよ?それに、遺伝子組換え食品はもう散々食べちゃっているって、この間教えてもらったじゃない。
モリタック:それはそうなんだけど、何なんだろうなー、食べたくないって。説明できないってことは、非科学的なんだろうなぁ、きっと。
註釈:非科学的
科学的ではないこと。
閣下:非科学的だと何か困るのか?
モリタック:やっぱり、科学的であることって、重要じゃないですか?非科学的な主張には説得力がないですよね。
閣下:そうかな?典型的な科学コンプレックスだな。
モリタック:なんですか、それは。
閣下:科学的じゃないとダメに違いない、みたいな思想だよ。
モリタック:だって、科学と非科学なら、科学の方が偉いんじゃないですか?
閣下:そんなことはないよ。科学よりも重要視されることだって色々あるだろ。
モリタック:え?
閣下:科学って、何だと思う?
モリタック:実験をやることでしょうか。
閣下:実験をやっていたら科学か?例えばマウスに遺伝子組換えのダイズを食べさせたら、50%が死んだという報告があったとする。これは科学と言えるのか?
註釈:組換えのダイズを食べさせたら、50%が死んだ
組換え反対派が時々こういう実験結果について取り上げるのだが、基本的に再現性は全くないようだ。馬鹿らしくて検証実験すら行われていないのかも知れない。まだちゃんと調べてないけど。何しろ、マウスがそんなにバタバタ死んじゃうんじゃものすごい毒だと思うけれど、組換えダイズを食べて死んだ人を俺はまだ知らない。
モリタック:実験をやって、その結果、半分が死んでしまったというのは立派に科学なんじゃないですか?
閣下:実験をやったら死んだ。これがそのまま信用されるなら、学説はコロコロ変わってしまうんじゃないか?
ノブポン:「論文」という形で発表されていたとしても、それが正しい保証はこれっぽっちもないことはここであえて言うまでもない当然のことで、その信頼性はそれを掲載する組織の質によって左右されると考えられますね。
閣下:実験の結果は、第三者によって検証される必要がある。そして、検証のための方法が論文には記述されている必要がある。別の人が同じようにやってみて再現性がないと、話にならないんだ。
ヒロッコ:そういえば、年始にヘンテコな組織からヘンテコな「自称」論文が出たこともありましたね。
註釈:ヘンテコな組織
グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ。自称「仮想シンクタンク」。元三菱総合研究所の研究員から見ても意味不明の名称だし、やっていることも意味不明。「エネルギー政策を公平に研究」していると表明しているが、公平な印象は受けない。
註釈:ヘンテコな「自称」論文
「放射線の健康影響 ― 重要な論文のリサーチ」。著者は「GEPR編集部」だし、内容は滅茶苦茶だし、多分査読もないし、いわゆる「論文」のフォーマットは満たしていないと思われるが、そもそも「論文」に明確な定義があるわけでもなく(ただし、科学領域では「査読のある科学論文雑誌に掲載されたもの」以外は無価値)、もちろん論文を自称するのは勝手。個人的には「作文」「レポート」でも良いと思う。
閣下:あぁ、アゴラに載ったやつか。あれはひどかったな。自称シンクタンクが発表した自称論文だったな。
モリタック:どのあたりが酷かったのでしょうか。
ヒロッコ:論文をレビューしました、という自称論文だったけれど、どうやって抽出して、何を対象にして調べて、その結果、どういう事実が判明し、それをどう考察したのか、これがさっぱりわからないものだったのよ。
閣下:要は、著者の主観だけで書かれた感想文だったわけだ。挙句、新しい論文ではすっかり主義を変えてしまった著者の古い論文だけを取り上げていたりして、なんですか、これは、というレベルのものだったんだよ。
註釈:新しい論文
Risk of cancer after low doses of ionising radiation: retrospective cohort study in 15 countries
ノブポン:「これは論文です」と自称してコンテンツをインターネット上にアップすることは誰でもできますから、論文を発表すること自体は非常に簡単と言える可能性が高いと考えられなくもありません。
閣下:ま、そういうヘンテコなものはともかく、だ。科学というのは、まず仮説を立てて、それを確かめるための実験があって、実験結果をまとめて考察して、それを論文にして、多くの専門家によってその考察が正しいかを検証し、必要に応じて追試をやり、議論し、そうしたやり取りの後に、「多分正しいんじゃないか」という合意にたどり着く、そのプロセスのことを言うんだ。
註釈:プロセスのことを言う
詳細は森博嗣「科学的とはどういう意味か」(幻冬舎新書)参照。
モリタック:なんか、とても正しそうです。
閣下:とはいえ、科学はその時点での専門家の合意事項であって、それが正しいとは限らない。科学的に安全であっても、絶対に安全というわけじゃない。
モリタック:遺伝子組換えパパイヤはどうなんですか?
閣下:科学的には安全だな。
モリタック:でも、食べたくありません。
閣下:食べなければいいだろ?
モリタック:いいんですか?
ヒロッコ:いいんじゃないの?
モリタック:それは非科学的ですよね?
閣下:非科学的でも構わないんだよ。
モリタック:科学的に説明したいです。
註釈:科学的に説明したい
特に文系の人に見受けられがちなメンタリティ。ちょっと論文を読んでみて、「これだ!」と大喜びしたりするのだけれど、良く調べてみたらそのあと取り下げられていたり、もうずっと昔のものだったり、本人は科学的なつもりでも、実際には科学的に役に立たないケースが少なくない。理系の人間は科学の限界がわかっているので、自分の専門外についてはあまり無理をして科学的に説明しようとしない。少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。
閣下:何を?
モリタック:食べたくないという、私の気持ちを科学的根拠に基づいて説明したいです。単に気分の問題じゃないんだって。
閣下:それは無理だな。
モリタック:ええっ?
ヒロッコ:科学的には安全という結論が出ているのよ。それを科学的に覆すには、それなりの努力が必要なの。
註釈:それなりの努力
少なくとも実験はほぼ必須。
閣下:別に、お前に無理やり食べさせようってことじゃないんだから、いいじゃないか。
註釈:無理やり食べさせよう
学校の給食とか、刑務所の食事で出すのはちょっとマズイかも知れない。
モリタック:うーーーーん
閣下:そういう、お前の考え方が科学コンプレックスだ。
モリタック:ダメですか?
閣下:ダメだな。そうやって、科学的に自分の立場を説明しようとするからおかしなことになる。無理に説明しようとして、頓珍漢なことを言ったりするから、トンデモの烙印をおされてしまう。
モリタック:どうしたら良いんでしょう。
閣下:科学は絶対じゃないんだよ。科学よりも優先されるものもあるんだ。
モリタック:そうなんですか?例えば何ですか?
閣下:例えば宗教だな。宗教上の理由で牛を食べることはできません、とか、あるだろ。あるいは主義。動物は食べたくありません、とか。ベジタリアンが動物を食べないのは、科学では説明ができないじゃないか。
註釈:宗教上の理由
ヒンドゥー教の教徒は肉食を忌避するケースが多い。特に牛は聖獣とされていて食べない。牛乳や乳製品はオッケー。
モリタック:なるほど。
閣下:同じように、「遺伝子組換え食品が嫌です、食べたくありません。理屈じゃないんです」って、これは十分にありだ。それを、科学的に危険だ、とか説明しようとするからおかしくなる。
モリタック:ついつい、科学的に主張したくなってしまいます。
閣下:塩酸と水酸化ナトリウム溶液があって、それらを混ぜて厳密にpHを7にしたとする。これはただの塩水だ。でも、「そんなもの、飲みたくない」っていう人もたくさんいるはずだろ?
註釈:pHを7
中性にしたということ。HCl+NaOH --> H2O+NaCl という反応で、塩水ができる。
モリタック:私は飲みたくないです。台所の塩なら大丈夫ですが・・・。
ヒロッコ:厳密に言えば、何が入っているかわからない台所の塩よりも、試薬として精製された塩酸と水酸化ナトリウムの混合物のほうが、ずっと純度は高いかも知れないのよ。
閣下:遺伝子組換えにしても、残留農薬にしても、化学調味料にしても、食品添加物にしても、ほとんどのものは科学的に「これは危険です」って主張しようとするからおかしくなる。気分的に嫌だ、でいい話だろ。抵抗がない人、抵抗がある人の両方が共存していて、お互いに相手の立場が尊重できて、自分の意思で選択できる、これで十分なんじゃないか?
註釈:ほとんどのもの
農薬や食品添加物は一般的に非常に厳密にリスクコントロールが為されており、健康上の問題が生じることはないと考えられる。ただし、故意に高濃度の農薬をふりかけたりする危険性は存在する(もちろん犯罪)。逆に、ジャガイモに含まれるソラニンなど、ある意味野放しになっている天然物在中の毒物も少なくない。
モリタック:科学が全てじゃないということでしょうか?
閣下:そういうことだな。遺伝子組換え食品に関して言うなら、反対派は、科学を捨てた方がずっとスマートな議論ができるはずだ。それは別におかしいことじゃない。
モリタック:変な科学を振りかざしてはダメということですね。
閣下:「科学的には反論できませんよ」って言っているのに、なぜかムキになって科学的な反論を試みて、その結果、論文とも言えない論文を見つけてきたり、10年も前の論文を引っ張り出してきたりする。パブコメに一所懸命投書しては、「反対意見がこんなにあるのに無視された」って腹を立てる。
註釈:パブコメ
規則や命令を制定する際、一般市民に広く意見、情報などを求める制度。多数決ではなく、一定の専門性を持った人からの有意義な意見を収集する手続きだが、その意図が一般には浸透しておらず、署名活動と勘違いして無駄な努力をする人が多数発生する。
モリタック:なんか、科学的なのは偉くて、非科学的なのはダメ、みたいなイメージがあるんです。
閣下:日本人の多くは無宗教だけど、「科学絶対教」の信者みたいなところがある。そろそろその宗教から脱したらどうなのかな。科学的であることが絶対的に優先されるわけじゃないんだから。
モリタック:ちょっと、水からの伝言とか、血液型性格診断とか、EM菌とか、そういうのを勉強してみます。
ヒロッコ:そういう、疑似科学の話はまた別物よ。
註釈:疑似科学
見かけ上は科学に見えてしまうような、科学ではないもの。
モリタック:あれ?そうなんですか?非科学的でも良いっていうから、てっきり・・・。
閣下:遺伝子組換え食品で言えば、「本来含まれていなかったタンパク質やペプチドが作物に含まれているもの」や、「GMOを製造ツールとして利用したもので、最終製品には組換えたタンパク質やペプチドが残留していないもの」がある、ここまでが科学的な事実だ。前者も後者も、科学的には「多分安全だ」という合意が形成されているから、それらはスーパーの棚に並んでいる。ここまでが「科学」の領域だ。それを食べるのか、食べないのかは、個人の判断で、その基準は必ずしも科学的である必要はない、ということだよ。
註釈:GMO
遺伝子組換え生物。遺伝子組換え農作物、トランスジェニックマウスなどが含まれる。GMOのうち、食べることができるものが遺伝子組換え食品、ぐらいの定義なんじゃないかと思う。
註釈:ペプチド
タンパク質を分解して得られる、アミノ酸が数個〜数十個結合したもの。
註釈:製造ツール
GMOを製造ツールとして作られているものの代表例は植物油。精製されて油だけになっているので、GMOの痕跡は取り除かれている。取り除かれている以上、非GMO由来の油とは見分けがつかないので、表示も不要になっている。たとえ非GMOを偽装されても、技術的にそれを指摘することができないからである。
モリタック:えっと、AKBの女の子たちを選ぶのは秋元康さんだけど、その中で誰を応援しようと私の勝手だと、そういうことでしょうか?
閣下:大筋で間違ってない。AKBの選抜が科学的かどうかはわからんけどな。