監督がやりたかったのは多分スティングの現代版のようなものなんだろう。その意味ではそこそこいけていたと思う。軽妙な笑いで繋ぎつつ、大きく騙している。
堺雅人、香川照之や脇役はみんな芸達者。良いキャストを集めたと思う。演技力に難のある広末もどうしたわけかコメディだけは上手に演じるので、この映画では適役だと思う。
脚本の出来も悪くない。冒頭の広末のシーンから期待させる。そこから大きな緩みもなく、面白く進んでいく。途中で「ここまで風呂敷を広げて大丈夫かな」と心配になったけれど、無難に畳んでいた。細かい伏線もなかなか凝っていて、それぞれがきちんと回収されていた。とはいえ、どこにも穴がないかと言えばそんなこともなく、スタート直後の「夜の団地のシーン」「昼の銭湯のシーン」「続く夜のシーン」の時間の流れがどうもゆっくりしすぎ、とか、貧乏役者の部屋が異様に広い、とか、体格の違う人間のオーダーメイドスーツがそこまでぴったりするの?とか、重要なはずの人間が国内でゴルフしていても良いの?とか、最初の8ページって、本は構造上「はじめの」なら奇数ページになるはずだろ、とか、色々疑問点もあった。一番「勿体ない」と思ったのはステレオを聞いての「転」がストーリーの中でかなり早めに来てしまったこと。もっと引っ張って欲しかった。「転」のあと、「転」「転」と畳み掛けたかったんだろうけれど、その細工が最初の「転」ほどではなかったので、冗長に感じたのもあると思う。大仕掛は一発のほうがすっきりする。大仕掛を用意しつつ、あとは単なるラブコメとして続けていけば良かったのになぁと思わないでもなく、そういう意味では映画よりもドラマ向けの設定だったと思う。
内田けんじ監督は、アフタースクールでは観客を騙す「承」のところまでが非常に退屈だったけれど、本作はちゃんと楽しめる。一方で、アフタースクールほどの爽快感がなくて、そこはちょっと残念だった。
細かな笑いでラストまで引っ張るなら「最強のふたり」の方が上。役者の表情で多くのことを語らせるなら「夢売るふたり」が上。堺雅人の良さを強烈に引き出すなら「リーガル・ハイ」の方が上。広末の良さを引き出すという意味なら「バブルへGO!!」の方が上。女優を可愛く撮るというのなら「モテキ」の方が上。騙し具合ならもちろん「スティング」が上、という感じで、「こりゃ傑作!」と膝を打つほどではないかな、と思う。