2012年09月29日

「エッグ」野田地図 第17回公演(@東京芸術劇場プレイハウス)二回目

二回目の鑑賞。一回目の感想はこちら。

NODA・MAP 第17回公演 「エッグ」(初日)
http://blog.livedoor.jp/buu2/archives/51358491.html

鑑賞前に「新潮 10月号」に掲載された戯曲をざっと読んでおいた。

前回は初日ということもあって芝居にもややまとまりがない印象を受けたのだが、今回は大分こなれていたような気がする。そして、観る側も戯曲を読んでいたので、非常に理解しやすかった。これから観る人に言っておきたいことは、戯曲の冒頭の6ページぐらいで構わないので、読んでおいた方が良いということだ。それだけで、芝居の構造がわかる(時空の配置と、野田秀樹のセリフ、そして深津絵里の歌う歌の歌詞)。特に、前から10列目程度よりも後方の席で観る人にはお勧めしたい。野田秀樹は以前からちょっとセリフの聞き取りやすさに難のある役者だったが、舞台が大きくなるとそれが顕著になる。この箱は役者野田秀樹にはちょっと大きすぎて、何を言っているのかが聞き取れない。そして、それが聞き取れないと、舞台の構造がわからなくなってしまうのである。

舞台が役者にとって大きすぎる、というのは、本作の場合、野田秀樹だけに当てはまるわけではない。名優橋爪功にもちょっと持て余し気味な印象だし、女子高生役の女の子たちは言うに及ばず、妻夫木聡にも大きすぎる。むしろ、大丈夫な役者の方が少ないくらいだ。物語を見せる現在の野田秀樹の芝居にとっては声が届かないというのは致命的で、それは観客サイドで補う必要がある。それが、「戯曲を読む」という行為である。また、全般的に良い演技を見せていた深津絵里だが、残念ながら歌唱の際の滑舌に問題がある。ここを補う意味でも、戯曲は役に立つ。

別に新潮社から何かをもらっているわけではないけれど、「新潮 10月号」は他にも面白い文章が掲載されていて、見所が多く、買って損はないと思う。

いや、ちょっと思うのは、劇団の先行予約で受け付けておいて、15列目とかはちょっとないんじゃないのかなぁー、と。そのあたりになると、正直、S席相当ではないと思う。下記を見るとわかるけれど、ほとんどS席なんだよね。

エッグ 座席表
http://www.nodamap.com/productions/egg/img/playhouse.pdf

でも、J列以降だと、この出演者では正直厳しい。正面を向いて発声していれば問題ないものの、ちょっと横を向いて声を出していたら、15列目までは声が届かない役者が半分くらいいるのだ。見切れてしまうから安くするというのは当たり前だが、声が届かないのも同じように安くするのが当たり前だと思う。

劇評が日経新聞に掲載されているのを読んだが、恐らくこれを書いている人の座席はかなり前方なんだと思う。ぜひ二階席正面などから観劇してみて欲しい。受ける印象は全く異なるはずだ。きちんと声が届いているなら「遠いほうが全体の構図がわかりやすい」などの考え方もあるが、最近の野田秀樹作品は「遠くから観たのではつまらない」という状態になっていることがわかると思う。

僕は野田秀樹がシス・カンパニーと文化村から離れたことを歓迎したクチである。その理由は、シスがあまりにも興行重視で、劇の質を無視していることと、文化村の料金の高さにあった。シスを離れ、拠点を芸術劇場に移して、それが改善されるかと思ったら、さにあらず。これでは何で変化を求めたのかがわからない。

#野田さんは、観客が満員に入っている状態で、客席の後ろの方から自分の芝居を観たことがないのだろうか・・・。それとも、シスや文化村とは別の問題をやっぱり抱えていて、思ったような芝居ができないでいるんだろうか。

さて、今回は運良くH列29番という、端ではあっても前から8列目というポジションだったので、内容はきっちりと把握できた。物語の流れは過去に一方的に遡っていくだけなので、以前の野田作品のような難解さはない。そして、後半、強烈にアピールする人間の「醜さ」には何の救いもない。まぁ、それはそれで良いのだけれど、何十年経っても心に残っている、「少年はいつも動かない。世界ばかりが沈んでいくんだ」といった、「セリフ」そのものが野田作品の特徴だったはず。そういうパワーを持った言葉が失われてしまい、道具を使った演出中心に力が入っているのがちょっと残念だった。これは、言葉が通じない海外での公演を通じての、野田秀樹なりの進歩なのかも知れないけれど、日本人としては、ちょっと残念である。

二度目を観ても、やはり評価は☆2つ。面白い作品ではあるものの、この芝居が9,500円のスタンダードになってしまうのはちょっと合点がいかない。衣装や美術、音楽に力が入っているのはわかるけれど、それでも6,000円ぐらいでぜひ、という感じである。

チケットは完売だから、この価格でも観る人が溢れているわけで、それなら価格を下げる理由はないんだけどね・・・。建物、立派になったし。

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この記事へのコメント
はじめてコメントさせていただきます。
あまりにも「エッグ」を見ての感想が私と同じでしたので思わずコメントさせていただきました。
演出家としての野田秀樹の成長と反比例すか化のように脚本家としての野田秀樹のパワーが落ちてきているように感じてとても残念に思えます。
何よりも独白、そして長台詞が減ったように思えます。また、以前は野田秀樹の舞台を見ると感じた劇後半に向けての駆け抜けていくような密度が徐々に増していくような感覚があったのですが、それも減った気が…。総じて言えば、最近の野田秀樹の戯曲はわかりやすくなってしまったとように思えるのです。
演劇を見慣れない人にとっては、そちらの方がよいのでしょう。特に今回などは椎名林檎を起用して、今までと違う客層も観に来ているはず。わざと間口を開くしようとわかりやすくしたのかしら?とも思えます。しかし、どうしても野田好きとしては寂しい、あの感覚はどこにいってしまったの?と。
…まぁ、なんだかんだ言っても見てしまうのですが。
長々と失礼いたしました。
Posted by キリコ at 2012年10月02日 10:12
> 演出家としての野田秀樹の成長と反比例すか化のように脚本家としての野田秀樹のパワーが落ちてきているように感じてとても残念に思えます。

「キル」あたりまでは、心に残るセリフがあったんですけどね。あと、個人的に「ロープ」や「パイパー」は好きなんですが・・・「南へ」とか、「ザ・キャラクター」とかは、どうも、うーーーん。

> …まぁ、なんだかんだ言っても見てしまうのですが。

そうなんですけどね・・・。これまではほとんど複数回観劇しているのですが、これからは、新作は新潮に戯曲が載ったあとのタイミングに一度で良いかな、とか。
Posted by buu* at 2012年10月02日 11:30