2012年10月23日

総統閣下はお怒りです「鳥取対神奈川の決闘」

モリタック:閣下、大変です。前回の参議院選挙は憲法違反だったと、最高裁が判断したそうですよ。

註釈:“おととしの参院選は違憲状態”最高裁(NHK)など、報道事例は多数。


ヒロッコ:モリタック、あなた、意味わかってんの?

モリタック:もちろん・・・

ヒロッコ:わかってないわよね?

モリタック:はい。そこで、総統閣下にレクチャーしていただきたいと思ったのです。

閣下:前回はもちろんのこと、最近の参議院選挙の選挙区選挙の一票の格差が大きすぎる、ということだろ?

モリタック:ちんぷんかんぷんです!!

ヒロッコ:えばるんじゃないの。

モリタック:えばるって方言ですよ!

ヒロッコ:一々揚げ足を取らない!

閣下:狭い作戦室で喧嘩するな。作戦室に下品な奴は不要だ。

モリタック:ごめんなさい。

閣下:じゃぁ、今の参議院選挙の概要を説明しよう。まず、参議院の定数は242議席だ。このうち、146議席が選挙区、96議席が比例区になっている。また、参議院議員の任期は6年で、3年毎に半数を改選することになっている。

ヒロッコ:今回、問題になっているのは選挙区の146議席ですね。

閣下:そのうち、半数を改選するので、参議院選挙の選挙区では毎回73議席を争って選挙をしていることになる。そして、選挙区は都道府県単位で区切られている。

ヒロッコ:都道府県ごとの選挙人数と定数を最新の資料を使って表にしてみました。

表1
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閣下:この表は改選数ではなく、定数でまとめられている。だから、必ず偶数になっているわけだ。東京都の定数は10人で、一度の選挙ではそのうちの半数の5人が改選されることになる。さて、ここで、一人の参議院議員の背後に何人の選挙人がいるかを計算してみろ。

モリタック:40秒で計算しなっ!

ヒロッコ:うるさいわね。こんなのすぐよ。はい、どうぞ。

表2
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閣下:この数字を比較することによって、「一票の格差」を調べることができる。鳥取県は参議院議員一人あたり、242,328人の選挙人が背後にいるが、神奈川県は1,223,396人もいることになる。格差を計算すると5.05倍になる。

モリタック:うーーーーーん・・・・

ヒロッコ:鳥取県選出の議員も、神奈川県選出の議員も、国政における発言権は同じなの。その背後にいる選挙人が、神奈川県は鳥取県の5倍もいる、ということ。つまり、神奈川県民1人あたりの発言力は、鳥取県民1人あたりの5分の1しかない、ということよ。

モリタック:それは酷い!!

閣下:と、最高裁も判断した、ということだ。

モリタック:なるほど!さすがは総統閣下。素晴らしくわかりやすいです。じゃぁ、定数を変えちゃいましょう。神奈川を増やして、鳥取を減らしましょう。

ヒロッコ:ところが、話はそう簡単じゃないのよ。

モリタック:抵抗勢力がいるんですか?

ヒロッコ:それもあるけれど、今のままじゃ、技術的にも凄く難しいのよ。

モリタック:意味がわかりません。

閣下:選挙区が細かすぎるんだ。現在、日本全国では1億400万人の選挙人がいる。そのうち、鳥取県の選挙人は48万人だ。全国に占める鳥取県の選挙人の割合は、たったの0.46%に過ぎない。

モリタック:だとすると、どうなんですか?

閣下:0.46%とは、200分の1以下ということだ。全国の200分の1以下しかいない鳥取に定数1を割り当てた場合、一票の格差が生じないように議員数を確保するなら、議員数は200人が必要になる。

モリタック:ところが、議員数は146しかないわけですね?

閣下:そういうことだ。しかも、実際には、鳥取県の定数は2だ。

モリタック:ええっ?1にしましょうよっ!

ヒロッコ:そうは問屋が卸さないのよ。さっきも言った通り、参議院議員は半数を改選するから、ひとつの選挙区の議員数は必ず偶数じゃなくちゃならないの。最低でも2ということね。

閣下:ということで、公平を期すなら、議員数は400人が必要になる。

ヒロッコ:にも関わらず、議員数は146しかないから、どんなに頑張っても一票の格差は大きくなっちゃうの。計算によれば、2.73倍以下にはならないのよ。

閣下:しかもその数値は「理想的には」だ。実際には、格差はもっと開いてしまう。これは、都道府県単位で選挙区を設定している限り、改善のしようがない。技術的に無理なんだ。

モリタック:そうは言わずに頑張ってみましょうよ!

閣下:じゃぁ、無理やり頑張ってみるぞ。ヒロッコ、試しに、「議員数は偶数」とか考えずに、無理やり割り振ってみてくれ。

ヒロッコ:凄く無理やりやってみました。どうぞ。

表3
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モリタック:議員数1.5とか、0.75とか、なんですか、これは。

ヒロッコ:1.5のところは1回の選挙の議席数が0.75議席だから、4回の選挙のうち3回は1議席、1回は0議席、みたいな感じね。

モリタック:0.75とか、その半分ってことですね。

ヒロッコ:8回の選挙のうち3回は1議席、残りは0議席、みたいな感じかしらね?

閣下:とりあえず、「今回の選挙は鳥取県は不参加」みたいなことになるのは間違いない。

モリタック:下手したら6年も不参加ですか・・・。6年の間に、時代の流れに取り残されます!

ヒロッコ:問題は、ここまで無理しても、一票の格差は1.47にしか改善されないってことなの。

モリタック:つまり・・・

閣下:都道府県単位の選挙区は細かすぎるんだ。

モリタック:よし、じゃぁ選挙区を修正しちゃいましょう。

ヒロッコ:どうやって変えたら良いと思うの?

モリタック:私が決めて良いなら、地方別でどうでしょうか。北海道、東北、関東、北陸、中部、関西、中国、四国、九州ぐらいで。

ヒロッコ:モリタックにしては珍しく合理的な考え方ね。じゃぁ、それで選挙人数を計算して、議席を割り振ってみるわね。

表4
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モリタック:ほら、見てくださいよ。なにか、随分とすっきりしたじゃないですか!

ヒロッコ:一票の格差も1.40に収まっているわね。

モリタック:それならもうちょっと頑張っちゃいましょうよ。中部と北陸、中国と四国をそれぞれ一緒にしちゃいましょう。

ヒロッコ:はいはい。

表5
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モリタック:キターーーー。一票の格差はどのくらいですか?

ヒロッコ:1.16よ。

モリタック:キタキタキタキタ!!!僕って、天才かも???そうだ!もっと凄いことを考えつきましたよ!

ヒロッコ:今度は何?

モリタック:北海道と東北と関東と中部と北陸と関西と中国と四国と九州を一緒にしましょう。

ヒロッコ:全部じゃない(笑)

モリタック:ここまでやったら、一票の格差は凄く小さくなるはずですよ?

ヒロッコ:っていうか、格差はなくなるわよね。

モリタック:なぜそうしないんですか?

ヒロッコ:政治家が、人口の多い地域のために政策を考えるようになっちゃうからじゃないかしら?

モリタック:それではダメなんですか?

閣下:ダメっていうこともないだろうが、地方軽視にはなるかも知れない。そのあたりの、都会と地方のバランスをどう取るかがポイントということだ。

モリタック:でも、現状でこれだけ一票の重みがあるのに、田舎の人口が増えないのはなぜですか?

閣下:人口増加という意味では、あんまり意味が無いのかも知れない。しかし、こんな感じで考えてみるとどうかな。まず、都道府県ごとの地方交付税額を調べてみる。これは総務省が発表しているので、その最新版を使ってみる。平成22年のものだ。

ヒロッコ:了解。

閣下:次に、これを選挙人の数で割ってみる。選挙人データは平成23年9月のものなので厳密には正確ではないけれど、今回の考察では投票率なども無視しているので、容赦していただこう。こうやって、選挙人一人あたりの地方交付税額が計算できる。最後に、鳥取県を1とした場合の1票の重さを計算してみる。

ヒロッコ:まとめました。

表6
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閣下:さて、これだとちょっとわかりにくいので、グラフにしてみよう。

ヒロッコ:こんな具合です。

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図1

モリタック:おおっ!!!一票の重さが重いと、地方交付税をたくさんもらえるんですねっ!!!

閣下:いや、それはちょっと早とちりかも知れない。相関関係があっても、因果関係があるとは限らないというのは俺が散々説明してきたことだ。

ヒロッコ:一票の重さが重い都道府県は、基本的に人口が少ない地域で、そこに地方交付税がたくさん出ているのは、それほど不思議な話ではないですからね。

閣下:そういうことだ。ある程度の相関があるのは間違いないが、だからといって直接の因果関係があるとは限らない。

モリタック:なるほど・・・。ところで、その重たい一票で選出されている政治家は誰なんでしょうね?鳥取、島根、徳島、高知、佐賀あたりの政治家さんは?

ヒロッコ:鳥取県:川上義博(民主党)、浜田和幸(国民新党)、島根県:亀井亜紀子(みどりの風)、青木和彦(自民党)、徳島県:中谷智司(民主党)、中西祐介(自民党)、高知:武内則男(民主党)、広田一(民主党)、佐賀県:川崎稔(民主党)、福岡資麿(自民党)というラインナップね。

モリタック:これといった特徴、ないですね。

閣下:しかし、だからといって放置しておいて良いはずもない。地方交付税だけじゃなくて、国政が過剰に地方重視になっている可能性は高い。

ヒロッコ:整備新幹線とかですね。

閣下:だから、国会にはきちんと対応して欲しいものだ。結論は簡単なんだ。都道府県単位の選挙区ではダメ、ということだ。

モリタック:なぜ放置されているのですか?

ヒロッコ:ルールを決めているのが、政治家自身だからねぇ。

モリタック:他に何か解決策はないんですか?

ヒロッコ:議席数を増やすとかね(笑)

モリタック:それはダメなんですか?

ヒロッコ:議員の給料もタダじゃないから、基本的に減らすことはあっても、増やすことはないわよ。

モリタック:うーーーーん、やっぱり、選挙区を考えなおさないとなんですね。

閣下:そういうことだ。政治家には、世界が自分を中心にして動くと思って欲しくないものだな。

モリタック:とりあえず、島根と鳥取はひとつにしてしまったらどうでしょうか?

閣下:島取(シマットリ)県とか、可愛くて良いかもしれないぞ。

ヒロッコ:ゆるキャラじゃなくて、ゆる県ですね!!!

初出:2012年10月19日
加筆・修正:2012年10月23日



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