2012年12月08日

ふがいない僕は空を見た

しばらくご無沙汰だったタナダユキ監督の新作。「百万円と苦虫女」で蒼井優の良い演技を引き出していたけれど、本作でも俳優たちの良い所を上手に引き出していたと思う。

百万円と苦虫女のレビューはこちら
http://blog.livedoor.jp/buu2/archives/50699717.html

彩度、明度を抑えた画像作りと音楽・間の使い方が正統的日本映画という感じ。特に音楽の使い方は特徴的で、基本的にBGMはほとんど使われていない。ところどころ、ポイントになるような場所でだけ、必要最小限の音楽を使っている。加えて「女性はたくましく、男性は情けない」「女の敵は女」というのが上手に描かれていて、女性監督っぽい仕上がりだったと思う。同世代の女性監督の西川美和監督の場合、女性に対してサディスティックな感じがあるのに対して、タナダユキ監督は非常に優しい感じなのが対照的である。

脚本は非常に凝っていて、演劇では良くあるものの、映画でここまで技巧に走った(=ひねった)ものは珍しいと思う。書いたのは「俺たちに明日はないッス」でタナダ監督と組んだ向井康介。作りが複雑で、前半、中盤、後半で全く見せ方が違うのが面白い。時系列をグチャグチャにした前半、なぜかそれまでと全く違う人物にフォーカスされて展開していく中盤を経て、きちんと風呂敷を畳んでいく終盤が親切。全体を貫いている一本の串は「命」で、登場人物たちの様々なエピソードが用意されたラストシーンに収束していく。

役者では、まずベテランの銀粉蝶が良い。ブリキの自発団や、最近は野田地図の芝居で良く観るけれど、その存在感はスクリーン上でも遺憾なく発揮されていた。河原の長い1カットのシーンは見せ場のひとつ。「北の国から」で変人教師を演じた原田美枝子が新人類教師と対峙しているのも面白かった。おっぱい丸出しで頑張った田畑智子の「パラレルプリンセス・バージョンアーーーップ」は映画が終わってもしばらく耳から離れないし、べらんめぇな感じの女性を演じた梶原阿貴も良かった。全体的に、女優陣の奮闘が光るけれど、男優では窪田正孝が良かった。

ところどころで、「しょーがねーなー、全く」と苦笑してしまうようなシーンがあって、そのたびにちょっと冷めた感じになるのだけれど、ラストでは背筋を伸ばして観たくなるように持って行くところがさすが。

主要な登場人物たちの全ての命に対して残酷でありつつ、それぞれの存在意義を明らかにし、「とりあえず、生きていかなくちゃしょうがないじゃん」と生きていく様を丁寧に表現していたと思う。今年二回観た邦画はこれが初めて。

この記事へのトラックバックURL