昨日の「総統閣下はお怒りです」(日の出テレビ)では、Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)を利用して本を出版する方法について喋ったんですが、ラストで「どうやって売っていくかが今後の課題」と締めくくったわけです。
昨日は時間切れでここで終了でしたが、じゃぁ、その課題解決にはどんな手法があるのか、考えてみます。
その1 読者の拡大
「使ったことがない」「買ったことがない」という人は、そのままでは電子書籍ユーザーになりません。彼らをこちら側の世界に引き込まなくてはなりません。一度買ってしまえば、「なんだ、簡単じゃないか」ということになります。
そのためのトリガーとしては、電子書籍でしか売ってないビッグタイトルが複数必要です。
まず、「しか」という部分が大事で、一般書籍として販売されていれば、保守的な日本人の多くが「高くても、一般書籍で」と考えると予想します。それともうひとつ、「複数」というのも大事です。なぜなら、書籍のターゲットはピンポイントで、電子書籍は特にそれが顕著だからです。逆に言えば、万人受けする宮部みゆきや東野圭吾は、現段階では電子書籍のみで出版する必要など全くないわけです。電子書籍になっているものは電子書籍である理由があって、それは「大衆ウケしそうにない」「あまり売れなさそうだ」というものです。ただ、その判断を下したのはあくまでも出版社や編集者であって、彼らが売れないと思ったのに(あるいは売れると自信が持てなかったり、会社の上司を説得できなかったり)バカ売れ、みたいな本が何冊も出てくる必要があります。
僕としては、「ノマドと社畜」などはそういう本の代表だと思うので、何度もプッシュしているわけです。ちょっとでも興味があれば、買ってみてください。Kindleを持っていなくても、スマホやiPadで読めてしまいます。内容はもちろん、フォーマットとしても「あぁ、電子書籍って、こういう感じなのか」というのがわかる本なので、最初の一冊として好適です。
その2 サポーターシップの醸成
サポーターシップという言葉があるかどうかわかりませんが、以前、カーリング関連でこんなことを書いたことがあります。
B to Cの関係をどうやって再構築していくか
http://blog.livedoor.jp/buu2/archives/51219044.html
ここで書いたのは、「消費者とスポンサーの新しい関係を構築していく必要がある」ということです。電子書籍に関しては、著者と読者の新しい関係が必要になってくるはずです。なぜなら、現状の電子書籍の著者はほとんど全てが弱い存在で、誰かの支援が必要だからです。じゃぁ、誰がどうやって支援するのか、ということになるのですが、基本的に、支援者は読者だけです。読者が、「この本、面白い」と感じたら、どんどんレビューを書いて、知人に教えて、その販売を支援する必要があります(もちろん、面白くなければ支援する必要はありません)。売れなければ、たとえその本が良い本だとしても、次の本は出版されないのです。
このあたりについて、わかりやすく卑近な例を考えてみます。誰かが、「元木さんには、次は横浜のラーメン本を書いて欲しい」とつぶやいたとします。もちろん僕はやる気はあります。でも、横浜までラーメンを食べに行って、それを書籍化するためには、当然お金が必要になります。一般書籍であれば「取材費」として出版社から交通費と食費ぐらいは出してもらえますが、電子出版では誰もお金を出してくれません。僕の自腹になるわけです。そのとき、横浜の本を読みたいと言っている人は、何ができるのかって、とりあえずは池袋の本を買って、そのレビューを書く、あるいは知人に勧めることが最大の支援になるわけです。
以前の日本では、こうした馴れ合い体質、ムラ社会気質が一般的でしたが、今の日本の都市部ではすっかり希薄になりました。こそこそ悪口を言い、足を引っ張り合うような陰湿なムラ社会気質は相変わらず残っているのですが、なぜか相互に助け合うような気質は失われてしまったような気がします。電子書籍の一般化を加速するには、こうした古き良き時代の精神が必要なのではないかと思っています。
#間違っても、「行政の支援」などは考えないでください。
一人ひとりが、「この人の本をもっと読みたい」「この人の本をもっと多くの人に読んでもらいたい」と考える必要があるのです。多くの人が気がついていませんが、今まではその役割を出版社や本屋さんが果たしていました。KDPの世界には、その役割を主体的に果たす人がいません。読者の私たち自身が、その役割を果たす必要があります。
ちなみにKDPでは、アフィリエイトの紹介料率が10%と、かなり高めに設定されています。めいろまさんの本を僕のサイトから買ってくれた人も結構いるのですが、その紹介料は1,500円の本と変わりがありません。
その3 新しい「本作り」の拡大
KDPは、改訂が物凄く楽という特性があります。今のところ、24時間で改訂できます。僕の本も、すでに第2版になっていて、年内に数回の改訂を予定しています。また、価格の更新も楽です。そこで、「この本を読んだけれど、もっと良い物にしてあげますよ」という人が出てこないかなぁ、と考えています。これまた卑近に自分の本で言えば、「池袋のラーメン屋のラーメンの写真、もっといいものがあるので、全部取り替えませんか?」とか、「Google Maps直結も良いけど、イラストもあった方が良くないですか?」とか、「掲載店の配置がわかる大きな地図を作りましょう」といった提案があっても良いよな、と思うのです。僕が同意した場合、それらのコンテンツに僕がお金を支払って、次の改訂の時にそれを掲載すれば良いのです。いわば、事後編集です。僕の負担があまりにも大きければ、それは価格に上乗せしてしまえば良いのです。「今度の改訂ではこれこれしかいじかの大幅増訂があったので、価格は100円アップです」といった感じです。
#ここで手を挙げてくれるのは、個人のみならず、既存出版社でも全く問題ありません。例えば、「元木さんのラーメン本を写真と地図でサポートします。かわりに、一般書籍としてウチから出版させて下さい」みたいなオファーでも大歓迎なのです。
##あるいは、もっと前段階でのアプローチもありなはずです。「今回の一連のKDPに関するエントリーで一冊書籍にしませんか?」みたいな感じです。
また、KDPでの出版にあたっては、「編集者」が絶対的に不足します。本を出したことがない人はわからないでしょうが、編集者とは、校正をやるのみならず、全体の構成を再構築したり、資料を集めてくれたり、本を作る上で大きな役割を果たしてくれる人です。昨日の放送でも触れましたが、今回の池袋ラーメン本でも、実は編集者を探しました。結果的に見つけることができず、自分で全部やらざるを得なかったのですが、良い編集者と組むことができていれば、本のクオリティはもう1ランク上がっていたかも知れません。著者と編集者を結びつけるような仕組みがあったらなぁ、と思います。
#著者にとって編集者とは非常に大事なのですが、誰でも良いというわけではありません。著者からすると、自分の文章にあーでもない、こーでもない、とケチをつけられることになるので、お互いの信頼関係が非常に大切になります。「やりましょうか?」「お願いします」という、簡単な関係ではないのです。