ヒロッコ:今日の合コン、どうしようかなぁ。
モリタック:行ってくれば良いじゃないですか。どうしたんですか?
ヒロッコ:なんか最近、面倒くさいのよ。
モリタック:マジっすか。でも、ヒロッコも子供が欲しいなら、そろそろ・・・
ノブポン:そういえば、先日、読売新聞にこんな記事が載っていましたよ。
記事:「不妊治療助成「39歳まで」有識者会議で検討へ」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130408-OYT1T01701.htm
ヒロッコ:また私の神経を逆なでするような記事を見つけてくるわね。大きなお世話よ。
モリタック:でも、ほら、ちゃんとデータも載ってますよ。これは説得力があるなぁ。
閣下:ほう。面白そうな記事だな・・・・って、なんじゃコリャァ・・・!!
モリタック:か、閣下、どうされましたかっ??
閣下:モリタック、お前、この記事をちゃんと読んだのか?
モリタック:もちろん、流し読みです。
閣下:この記事を良く読んでみろ。
ヒロッコ:えーーーーと、不妊治療の有効性を考えると、40歳以上はあまり効果が期待できないので、助成金を出す上限は39歳にしましょう、という話ですよね?
閣下:問題は、その39歳という上限の決め方だ。
モリタック:えーーーと、出産率と流産率を年齢別にグラフにプロットすると、39歳ぐらいで交差するみたいですよ?
(出典:YOMIURI ONLINE)
閣下:出産率と流産率がグラフ上で交差することにどれだけの意味があるのか、言ってみろ。
モリタック:うーーーーん、そう言われると、意味は説明できませんが・・・
閣下:そして、この記事はもっととんでもないインチキが隠されているんだ。
ヒロッコ:アッーーーーーーーーーーー!!!
閣下:わかったようだな。
ノブポン:アッーーーーーーーーーーー!!!
モリタック:ちょ、ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。また私だけ仲間はずれですか?ちゃんと説明してくださいよ!!
ノブポン:これは、総統閣下のご著書「総統閣下はお怒りです」の12ページ「怪しいグラフ」で取り上げた例に酷似していますね。
モリタック:ねぇねぇねぇ、意地悪しないで、お願いしますよ。
ヒロッコ:仕方がないわね。じゃぁ、私がこのグラフを作りなおしてあげるわ。
モリタック:さすが、ヒロッコ!!ありがとうございますっ!!
ヒロッコ:日本産科婦人科学会のウェブサイトで元データを見つけてきたわ。
2010年生殖補助医療データブック(PDF)
http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2010data.pdf
ノブポン:このサイト、「登録・調査小委員会専用のページです。関係者以外はアクセスできませんのでご了承ください。」って書いてあるんですが・・・・
http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/
ヒロッコ:アクセスできちゃうんだから仕方ないわよ。アクセスできないようになったら諦めましょう。さて、データを使って、グラフを作ってみたわよ。
モリタック:あれ?なんか、違うグラフですよ?
ヒロッコ:両サイドの目盛りに注意しないとね。読売新聞のグラフは、出産率は左目盛り、流産率は右目盛りになっているの。
モリタック:ヒロッコが作ったグラフは?
ヒロッコ:私のは、余計なことをせずに、同じ目盛りを使ってみたの。
モリタック:んんんん???
閣下:そもそも、このパーセンテージは注意が必要だ。読売新聞の記事では「出産率」「流産率」としているが、数字の分母が違っている。元データをみると、出産率は「生産周期数/総治療周期数」で、流産率は「流産数/妊娠周期数」だとわかる。
ノブポン:元データでは「生産率/総治療」とか、「流産率/総妊娠」と書かれていますが・・・。
閣下:間違いなのか、日本産科婦人科学会がそういう風に定義しているのか、そのあたりは俺には良くわからん。
モリタック:データの表記などは飾りですからね。偉い人にはわからんのです。
閣下:いや、これは飾りではないと思うが、今回は本質ではないから放置しておこう。ヒロッコが作ってくれたグラフと、読売新聞のグラフを見比べてみれば、読売新聞が作ったグラフの元データがこれだってことは容易に想像がつく。
モリタック:えっ???でも、グラフは違うものですよね?
ヒロッコ:だから、グラフの目盛りに注目してみて。読売新聞のグラフの、出産率の目盛りを、流産率と同じにしてプロットすると、私のグラフになるのよ。
ノブポン:読売のグラフは、流産率だけが出産率の3倍膨らんでます。読売新聞のグラフの赤い方を、縦にぐぐぐっと圧縮すると、ヒロッコさんのグラフのようになるんです。
モリタック:あっ!!ホントだ!!え?でも、ちょっと待って下さい。ヒロッコのグラフでは、出産率と流産率が交差するのは31歳ぐらいですよ?
ヒロッコ:そうね。
モリタック:これじゃぁ、39歳を上限にするんじゃなくて、31歳を上限にすべきじゃないですか?
閣下:そもそも、グラフの交点を上限にすべき、というのが良くわからん考え方なんだがな。
モリタック:あ、そうでした。でも、じゃぁ、読売新聞のグラフは一体何なんですか?
ヒロッコ:とりあえず、39歳で出産率と流産率が交差するように、無理やりグラフを作ったんでしょうね。
モリタック:な、何のためにそんなことを??
閣下:お前のようなオッチョコチョイを騙すために決まっているだろう!!
モリタック:くそっ!!軍法会議ものだっ!!
ヒロッコ:ごめんなさい。こういうとき、どんな顔をすれば良いかわからないわ。
ノブポン:笑えば良いと思います。それにしても、こんな操作はやろうと思えばただちに実施できます。好きな年齢で交差させることができますよ。
閣下:有識者会議で、39歳を上限にしよう、と提言があったのは本当だろう。それから、読売新聞が作ったグラフにも嘘はない。日本産科婦人科学会のデータをもとにして、このグラフを作ることもできる。だけど、提言と、グラフの間には恐らく何の関係もない。
モリタック:じゃぁ、読売新聞はなんだってこんなグラフを作ったんですか?
閣下:多分、読売新聞は、厚生労働省の研究班がまとめた提言を支持したいんだろうな。それで、世論を研究班の主張が支持されるような方へと、世論を少しでも誘導したかったに違いない。
ノブポン:「助からぬものを助けるふりをするのは、偽善であるだけでなく、技術と労力の浪費だ」と言いたいのだと。
閣下:露骨すぎるな、その表現は。ともかく、日本にはモリタックのようなオッチョコチョイがたくさんいるから、この記事を読んで、「へぇーーーー、それなら、助成は39歳が上限でも良いかもね」と思うのだろう。
モリタック:ちくしょう。ちくしょう・・・。ちくしょう!!ちくしょう!!!!
閣下:正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に初めて成立するのだ。良く覚えておけ。
ヒロッコ:モリタック、「総統閣下はお怒りです」をちゃんと読んでないんじゃないの?もうちょっと勉強しなさいな。
(本記事は「総統閣下はお怒りです2」(今夏、Amazon Kindle版で発売予定)に収録された後、非公開になる予定です。なお、扱った記事についてはzapa氏(@zapa)のTwitter記事を参考にさせていただきました)。