国語辞典を作る作業を描いた異色作と言えるかも知れない。僕は作家なので出版社とも付き合いがあるし、編集者にも色々とお世話になっているので、出版社の内情に関してはある程度の知識がある。それでも、辞書作りの実際というのはほとんど知らなかったので、なかなか興味深く観ることができた。多分、出版に関する知識がなくても結構楽しめるのではないかと思う。
ストーリーには大きな捻りがなく、淡々と進んでいく。辞書作りのタコ部屋が舞台なので登場人物が少なく、そのおかげもあって人物描写が丁寧だ。そして、すぐに気がつくのが脚本の良さである。起伏のない単調なストーリーを見事に料理していて、途中で眠くなることもなく最後まで楽しめた。この脚本を書いた渡辺謙作の作品は初めて観たが、今後は注目しておきたい。
1995年ぐらいの時代感もそこそこに出ていたと思う。ただ、イミダスが置いてあるのなら、なぜ現代用語の基礎知識や知恵蔵がないのだろう、と思ったが、そのあたりは大人の事情なのだろうか。
松田龍平の演技はマンネリとユニークとのギリギリのところをいっていて、まだ引き出しに在庫を残していると思うのだが、一方で宮崎あおいは「神様のカルテ」や「ツレがうつになりまして。」などとほとんど変わらない演技だったと思う。これは役者の演技力の問題なのか、演出する監督の問題なのかわからないが、もうちょっと意外性のある見せ方をして欲しかった。オダギリ・ジョーは良い奴なのか、嫌な奴なのかがなかなかわかってこないあたりに演技力を感じた。加藤剛、鶴見辰吾といった男優陣がすっかり老けていてびっくりしたけれど、一方で八千草薫はすっかり見慣れてしまって、最近は老女版の香川照之みたいな感じがしてきている。ある程度高齢で、セリフを覚えることができて、足腰がしっかりしている女優のコマが不足しているのかも知れない。
石井裕也監督の「ハラがコレなんで」は終盤で失速した感があったけれど、この作品は最後まで楽しめた。日本映画らしい良い作品だと思う。評価は☆2つ半。
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