米国人の、ユダヤ系米国人による、米国人のための映画である。この映画をきちんと楽しむためには、米国の歴史や南北戦争についての知識が必須である。多少ネタバレになる部分は否定できないものの、ウィキペディアあたりで事前に勉強しておく必要があるだろう。調べておくべきキーワードは
エイブラハム・リンカーン
南北戦争
ゲティスバーグ演説
ロバート・エドワード・リー
といったあたりだと思う。恐らく、日本人が織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、武田信玄、上杉謙信や関が原の合戦あたりのことを知っているようなレベルで、米国人はこのあたりのキーワードについて知識があるのだと思う。
これらのキーワードに関する知識が欠落している状態でこの映画を観ると、前半は物凄く退屈だと思う。また、後半はスピーディに進むので退屈はしないと思うけれど、場面ごとの機微のようなものが感じ取れなくなりそうだ。そういうこともあってか、わざわざ冒頭に日本人向けのメッセージが付け加えられてはいるけれど、これだけでは全く不十分である。また、ワシントンの合衆国議会とホワイトハウスの位置関係なども、米国人にとっては多分「全くの常識」であって、それを前提として描かれているので、日本人には理解が難しいかも知れない。
日本人にはハードルが高いし、本気で楽しもうと思えば相応の事前学習が必須なのだが、エンタメ業界の常で、配給会社も、マスコミも、クリアすべき、しかし面倒な前提条件を抜きに「アカデミー賞主演男優賞」とか、「スピルバーグ」とか、ミーハー(死語)な言葉で飾り立てて、映画ファンをミスリードしている。これは目先の利益を優先しているに過ぎず、結果として「あれ?何が何だかわからなくて、退屈だったよ」「なんか、最近のスピルバーグって、つまらなくない?」「『フライト』もそうだったけど、思ったような映画じゃなかった」といった事態になる。
ストーリーとか、感想とか、そんなものを参考にしても意味がない。この映画を理解したかったら、まずは事前学習をきちんとやること。それを抜きに鑑賞して、「退屈だった」などと間抜けな感想を述べて失笑を買ったりしないように。
評価は☆2つ半。
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