2013年09月25日

そして父になる

子供を取り違えられて6歳まで育ててしまった2つの家族の、取り違え判明後の約一年間を描いたもの。

2つの家庭の民度や環境が全く違っているために、色々なミスマッチが発生してしまう。特に主人公福山雅治は子供の頃からお受験組の勝ち組人生を過ごしてきた人間で、職場結婚した夫婦間にも若干の行き違いがある。子育ては専業主婦の奥さんに任せっきりで、仕事人間として生きている様子を丁寧に描いている。その、仕事人間が、これまで育てた子供を手放して、新しく血の繋がりのある子供を手に入れ、さて、どうなるか・・・という内容。

子供の撮り方に定評がある是枝監督なので、子役の使い方は非常にうまい。演技をさせているというよりは好きにやらせてそれを撮影している感じ。福山雅治はいつもの演技といえばいつもの演技だが、ちょっと浮世離れしていて子供が嫌い、という、ガリレオ的な演技をこの映画でもやっている。やり慣れていることもあるだろうし、観る方も観慣れているので、違和感がない。キレるんだろうか、そろそろキレるかな?などと、ちょっとハラハラしながらの鑑賞である。オノマチはいつものちょっとヒステリーっぽい、ちょっと不幸っぽい女性を好演。とはいえ、彼女もいつもの定番の演技で、新味はない。もう片方の家族はリリー・フランキーと真木よう子が演じているが、こちらは、貧乏がすっかり染み付いていながらも、下町っぽい子育ての様子をうまく表現していた。僕などは横浜の貧乏長屋の育ちなので、「あぁー、そうそう」という感じだった。

話が進んでいくうちに、順風満帆にやっているように見えた主人公にも家族の問題があることがわかってきて、最後はタイトルにつながっていくという構成。邦画にありがちなセリフでの過剰な説明がかなり排除されていて、セリフの裏まできちんと読んでいくことが要求されるので、ばかみたいに親切な邦画になれていると理解できない場面があるかも知れない。

「一段落」を高学歴なはずの人間が「ひとだんらく」と発言したのは「お高くとまっているように見せて、実は無教養」という暗示かと思ったのだが、その後、その伏線を回収するような場面がなく、単にこの映画に関わった人たちの教養が足りなかったのかも知れない。もうひとつ、「あれ?」と感じた場面があったのだが、映画を見終わった時には忘れてしまっていた。何しろ、言葉を使って表現する人間がたくさん集まって作っているコンテンツに、こういう単純な日本語の間違いがあるのは残念でならない。ひとりぐらい気がつく人間がいないのだろうか。

評価は☆2つ半。邦画としてはなかなか良い出来だと思う。ただ、映画の前にあったカンヌの報告のような動画は余計。あんなものはテレビのワイドショウに任せておくべき。

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