2013年11月21日

四十九日のレシピ

最初に書いておくけれど、僕の現在における若手女優イチオシは堀北真希でもなければ長澤まさみでもなく、二階堂ふみである。「地獄でなぜ悪い」でも、「不道徳教室」でも、「脳男」でも、「悪の教典」でも、素晴らしい演技を見せていた。

さて、もうひとつ書いておくと、僕の現在における若手映画監督のオシはタナダユキと西川美和である。

本作は、70歳で急死した女性の四十九日を描いたもので、タナダユキ監督、主演永作博美である。縦軸で依存症の更生施設でたくさんの子供たちを送り出してきた女性の人生を、横軸で子供を産まなかった女性の人生を描いている。名優と言っていい俳優たちを配し、地味なストーリーをタナダユキらしい表現で調理している。

不妊で苦悩する女性を永作博美が演じている。芸達者な役者さんが多かったけれど、一番の存在感はやはり二階堂ふみである。実は、途中まで二階堂ふみが出ているのを知らなかった。単に、イモ役の女優のあまりに良い演技に「良い俳優だなぁ」と思っていた。途中から、ちょっとした仕草が二階堂っぽくて「もしかして?」と思い始めた。とはいえ、本作のイモはいつも厚化粧で、素顔が見えない。その女優がラストで厚化粧をとって登場したら、やっぱり二階堂ふみだった。本当にこの俳優さんは良い演技を見せる。もちろん、彼女が良いだけではなく、彼女の良さを引き出してくれる園子温とか、タナダユキに起用されているからでもあるのだが、多くの女優がしょうもない映画に出てその才能を伸ばせずにいる中、次々と良い作品でその存在感を発揮しているところに、実力と同時に運を感じさせる。彼女には、ぜひ野田秀樹の芝居に出て欲しいのだが、まだ野田秀樹の目に止まらないのが不思議である。僕が彼女のファンであることを差し引いても、彼女の演技は特筆すべきものだと思う。

では、ストーリーはというと、ちょっとありきたりな感じは否定できない。多分こうなるんだろうな、と思っている通りの展開になる。また、最後のフラはちょっと違和感がある。主人公の結婚の行方もちょっとどうなのかなぁ、と思わないでもない。こういった不満が残るのは、この映画が原作ものだからかも知れない。もうちょっと違うストーリーにできたらなぁ、と思う。というか、フラの前に終わってしまっても良かったんじゃないかとすら思う。でも、別につまらないわけではない。日本映画らしい抑えた色彩の中で、日本映画らしい「再生」を丁寧に描いている。

しかし、それにしても一番残念なのは、この映画が公開2週目にも関わらず、全然客が入っていないことである。タイガーマスクやハーロックに客が入らないのは全く問題ないのだが、この映画が、レディースデイの夕方でもガラガラの状態を見ると、なんとも寂しい気分になってくる。作家の立場でも、「もっと良い本がたくさんあるのに、新しい才能を発掘せず、プロモーションにお金をかけた本ばかりが売れる」という状態を残念に思うのだが、映画でも同じだ。テレビ局やジャニーズ、AKBが絡んだ映画ばかりに客が集まり、それを観て「日本の映画はつまらないねぇ」とため息をつきながら映画館を出てくる。それなら、こういう映画を観れば良いのに、と思うのだが、ライトな映画ファンにはこういう映画に関する情報は届かない。ということで、このレビューを読んだ人の中に、「たまには映画でも観ようかな」と思っている人がいたら、清須会議でも、SPECでも、悪の法則でもなく、この作品に足を運んでくださいm(_ _)m って、SPECは僕もまだ観てないんですが。

評価は☆2つ半。

僕が選んでいいなら、今年の映画祭の助演女優賞は本作の二階堂ふみで決まり。今僕が書いている新作小説が映画化されるなら、主演はぜひ二階堂さんにやって欲しい。無理だろうけど(笑)。

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