ミステリー調かと思ったら、一人の主婦が若い愛人に溺れて、銀行の金を横領し泥沼にはまっていく様子をストレートに描いた作品だった。もうちょっと展開に捻りが欲しかったところだ。
しかし、主演の宮沢りえの快演によって、作品は非常に出来が良いものになった。宮沢りえはしばらくの間、舞台で観ることが多かったのだが、2006年野田地図の「ロープ」で完全に一皮むけて、以後、日本を代表する女優になったと思う。
参考:野田地図「ロープ」buu.blog.jp/archives/50290620.html
ただ、手放しで褒めることができるかといえば、そうでもない。特に気になったのは効果音や音楽の使い方で、起伏を付けたい場面に音でアクセントをつけようと狙っていたのだが、これがちょっとあざとすぎる印象だった。穿った見方かも知れないが、宮沢りえの存在感に対向するために、監督が不必要な演出を施して自己主張した、と感じてしまった。
トータルで評価してみて惜しいのは、脚本がストレートすぎて解釈に幅がないこと。登場人物たちの心象が丁寧すぎるくらいに描かれてしまって、一度観るのには興味深いのだが、何度も繰り返し観たくなるような懐の深さが感じられない。また、主人公の心の動きが誰にでも起こりうることのように描かれているのならそれはそれで普遍性が生まれたのだが、この作品では、主人公の特殊性までをも丁寧に描き切ってしまった。結果として、エンターテイメントとしては良くできているのだが、語り継がれるような名作にはならなかったと思う。
宮沢りえや他の出演者の演技は良かったのだが、演出と脚本が足を引っ張ってしまった。評価はそれでも☆2つ半。