チェーホフ晩年の4大戯曲のひとつ、三人姉妹をケラ演出で上演ということで、文化村に観に行ってきた。
三人の姉妹には余貴美子、宮沢りえ、蒼井優というそうそうたるメンバーが並ぶ。このあたり、さすがシス・カンパニーと感じさせる。多分、余貴美子を舞台で観るのはこれが初めてだと思う。自由劇場時代は僕は高校生だったし、彼女が東京壱組の時は遊眠社や遊◎機械、第三舞台、第三エロチカ、離風霊船、ジテキン・・・といったあたりを観ていて、東京壱組までは手が回らなかった。その後、彼女は活躍の場を映画やテレビに移してしまったので、なかなか生の舞台で観る機会に恵まれなかった。映画では良く見かけるので、「きっとうまいんだろうなぁ」と想像していた。そして、初めて生で観た余貴美子は、当たり前のように素晴らしかった。宮沢りえや蒼井優も決して悪い役者ではないし、宮沢りえは野田地図の「ロープ」以来、日本を代表する役者と言っても大げさではないような活躍っぷりだが、それでも、一番存在感を見せていたのは余貴美子だったと思う。
チェーホフの戯曲は特定の主人公がいない群像劇というのが大きな特徴なので、この劇でもタイトルの三人姉妹の他にも色々な人物たちが登場する。段田安則、堤真一といった野田芝居でお馴染みの役者さんはもちろん、芸達者な役者さんたちが惜しげも無く起用されているので、ほとんど「あれ?」という場面がなかった。それにしても、段田さんはいつも最初のセリフだけで一気に場の雰囲気を変えてしまうからさすがだ。
美術や照明も素晴らしく、9,500円というチケット代もこれだけやってくれれば、と思わされる。
では文句の付け所が全くなかったかといえば、そんなこともない。僕が「?」と思ったのは、なぜ、今このキャストで「チェーホフ」「三人姉妹」なのか、ということだ。三人姉妹は1900年代のロシアで書かれた戯曲である。将軍だった父の死後、田舎町で冴えない生活を送りながら色々な意味で没落していく中にあって、労働に生の喜びを見出す、という、ちょっとイマドキとは言いがたいストーリーが展開されていく。もちろん、その中には普遍的な要素が含まれているのだが、それでもやはり古臭い感は否めない。その古臭いストーリーを上手に料理して違和感なく見せるなら「なるほど」と思うのだけれど、これだけのキャストを使って、ケラが台本を書いて演出しているのに、「ケラっぽさ」というものがあまり感じられなかった。つまり、今まで観たこともない三人姉妹という感じではなかった。ナイロン100℃の大ファンならわかるのかも知れないのだが、ケラ作品を5回ぐらいしか観ていない僕には「らしさ」がちょっとわからなかった。あるいは、「この凄いメンバーだからこそ、これまでで最高の三人姉妹を観せてやろう」ということだったのだろうか?もしそうだとすれば、確かにレベルは高かったと思う。ただ、残念ながら、僕には過去最高かどうか判断できるほどの経験値がなかった。
せっかく何から何まで超一流を揃えたのなら、超一流のラーメンではなくフレンチを食べたかった。「いや、これは超一流の寿司なんですよ!」と言われると、あ、確かに美味しかったけれど、日本一かどうかはもっと色々食べてみないとちょっとわかりません、みたいな?乱暴すぎる書き方かな(笑)。
東京公演は3月1日まで、文化村シアターコクーンにて。そのあと大阪で3月5日から15日まで。