2015年04月12日

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

birdman


過去のヒーロー物映画で大ブームを巻き起こした映画俳優が、すっかり落ちぶれた20年後に再起を期してブロードウェイで演劇に出演する、という内容。面白いといえば面白いかも知れないが、ストーリー的には「物凄く」魅力があるわけではない。では、何が面白いのか。僕は全く予備知識無しで観たのだが、仕掛けに気がついたのは映画の時系列がいじられた場面。同じシーンだと思ったところが、場所は同じでも、時間が経過している場面になっていた。それは極度に演劇的で、ストーリーと同じように、構造的にも演劇的であったのだが、このあたりの仕掛けについての詳細はネタバレにならざるを得ず、追記に書くことにする。

しかし、この作品はその仕掛けが全てと言っても良いもので、そこに言及しないのなら、ほとんど書くべきことが見つからない。最近の特撮技術はもの凄いので、どこまでが人間力で、どこからが技術力なのかさっぱり判断がつかないのだが、多くを技術に頼っていたとしても、その仕掛けを具体化した脚本、演出、演技の全てが凄かったとしか言いようがない。

アイデアの一発勝負なので、この作品のあとに同じような作品が作られることはないと思うのだが、いやぁ、良くやったな、と脱帽する。

「ほとんど書くべきことが見つからない」と書いたが、映画のラストで、主人公は人生で一度しか出来ない一発芸に挑戦する。そのあたりが映画の性質と共通していた。映画と演劇を対照的に扱って、その上で映画の中に巧妙に演劇の要素を取り込んだり、本当にヒーロー物の映画に出演している役者たちを主要な役にキャスティングしたり、米国の映画界への皮肉も含め、映画が扱っているテーマもなかなか良かったと思う。

評価は☆2つ半。






さて、追記である。

この映画は、驚くことに冒頭とラストの一部を除き、ほぼ2時間がたったひとつのカットで撮影されている。ハンディカメラを2時間回しっぱなしで撮っているのだ。その間、役者はどんどん衣装を変えていくし、場所も変わっていく。僕は長回しには鈍いというか、見ていてあまり気が付かないことが多いのだが(最近だと「さよなら歌舞伎町」などで気が付いた)、今回は冒頭の15分ぐらいで気が付いたのだろう。そこから先は、うわぁ、良くやるよ」という感じで最後まで観てしまった。長回しなら素晴らしいかといえばそんなことはないのだが、一つ一つの場面に緩急があって、場所やリズムの変化が非常に巧妙だった。

場面の緩急だけでなく、場面と場面のつなぎに様々なアイデアを投入しているので、ずっと緊張しっぱなしでの鑑賞となって、すっかり疲れてしまった。ただ、その疲労感は気持ちの悪いものではなかった。ストレートに、面白いものを観たな、と思った。また、「ブラック・スワン」などでも見られた、鏡にカメラが映らない場面も何度かあったので、細かいところで色々な技術が投入されているのだろう。ところどころで、「あれ?ここは何かやっているな?」というのも見つけることができる。

超絶長回しという一発芸の凄さが目立つ一方で、もうちょっとユーモアがあった方が良かったと思う。そのあたりは、まだまだ良くなったはずだ。そこが惜しい。もうおそらく二度と挑戦する人は現れないだろうから一層残念だ。

仮に長回しに気が付かなかったとしたら、評価は☆1つ半か、2つぐらいだと思う。

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