2015年07月26日

東京都現代美術館と会田誠さんの戦いを外野の前列で観ること

以下は昨日の夜に書いたものなんだけど、その後、こんなニュースがあるのを見つけて「あれ?」という感じである。

美術館「子ども向け表現を議論」 会田さん作品改変要請
http://www.asahi.com/articles/ASH7T62T2H7TUCVL00B.html
館側は、撤去は要請していないと話している。また、観客からはクレームではなく展示趣旨についての質問が寄せられたとした。


でもまぁ、良いや、そのまま載せちゃえ。
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僕は理研で3年ほど働いていたことがあって、それは松坂がまだ高校生で、甲子園の決勝戦でノーヒッターとなるかどうかが注目されたぐらいに昔のことだ。理研で感じたのは、現場に近い事務方ほど、研究者よりの考えを持っていて、一方で文科省からの天下りを筆頭に、現場から遠い事務方ほど、研究者に対して冷たい考え方をしていたことだ。ただ、その中には微妙な偉い人や、微妙な下っ端がいて、例えばテクニカルスタッフに冷淡で東大卒を厚遇するプロジェクトリーダーや、文科省の威光を借りて業者に居丈高に命令する奴などがいたりしたのだけれど、これらは例外だった。

それで、理研の事務方というのは研究者が自由にやりたいことができる環境を整備するというのが仕事で、基本的には、「研究者と一般社会の間の接着剤や緩衝材となること」である。例えば研究の内容をわかりやすく伝えるとか、動物実験に対する反対運動が起きた時にその対応にあたるなんていうのがわかりやすい例だ。

#だから、小保方氏の一件のように守っているはずの研究者がおかしなことをやってしまうと、その広報や防壁となっている立場の人間ははしごを外されて困ったことになる。

##ちなみに小保方案件における理研の対応は酷いものだったので、理研事務方の役割は重要だけど、能力は低いと思っている。

同じような役を果たす組織として、美術館がある。理研が科学者に自由に研究できる土壌を提供するのと同様、美術館は芸術家に自由に創作できる土壌を提供するのが仕事のはず。特に現代アートにおいては、一般生活者に対して作品を展示すると同時に、現在進行形で作家活動をしている人間を支援するのが重要な機能となっているはずだ。その点において、東京都現代美術館が「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」展で会田誠一家が出品した「檄」という作品に対して改変を要求し、それを拒否されると今度は撤去しようとしている問題は、美術館の自殺行為に見える。

この件については会田誠氏が自身のサイトで詳細に経緯を書いているので、それを読んでもらうのが一番である。

東京都現代美術館の「子供展」における会田家の作品撤去問題について
http://m-aida.tumblr.com/

本来であれば東京都現代美術館からのコメントも紹介すべきなのだが、これを書いている時点では発信された情報が見当たらないので、会田氏からの見解のみになってしまう。

東京都現代美術館の事務方の構成は知らないのだが、上層部に東京都や文科省からの天下りがいて、一件の馬鹿によるクレームを我田引水する形で文句をつけたのかな?というのが個人的予測なのだが、得てして役人がトップ近くに幹部として天下りしてきた組織ではこういうことが良く起きる。奴らは、大勢がデモを展開しても無視するくせに、自分に都合の良い匿名クレームはさも民意のように取り上げて喧伝する人種である。

理研の理事クラスだと、天下りは他の法人に渡ることはあっても、文科省に戻ることはない。彼らにとっては給料と退職金がもらえること、すなわち文科省から睨まれないことが重要な役割となる。こういう奴は、よっぽど骨のある人間でなければ、文科省の傀儡となる。現代美術館でも、同じことが起きたんだろうなぁ、と推察されるのである。

かように想像する理由は簡単で、現場レベルは、会田誠氏に制作を要請した時点で、それなりにインパクトのある作品ができてくることが容易に想像できたはずだからだ。それを百も承知で要請し、思った通りの作品ができてきた。予想外だったのは、どこかの馬鹿からのクレームがあったことと(やらせかも知れないけど)、それを理由に改変・撤去を要請するようなお偉方がいたことである。現代美術館は瀕死の状態である。

#なんか、3.11以後、特に安倍内閣以後、政治家や役人は自分に都合の悪いことはなるべく排除して見えなくしちゃうという志向が強いと感じてしまう。前からかも知れないけど。一件の苦情で作品の改変要求、それが無理なら撤去って、どう考えても美術館のやることじゃないでしょ。どこかの馬鹿が手本を示して、潜在的に存在した馬鹿まで「あぁ、自分に都合が悪いことはなかったことにしちゃえば良いんだ」と考えるようになったんじゃないかな。

さて、現状分析だけでは評論家なので、現時点で、僕達には何ができるのか考えてみた。おおよそ、こんな感じでどうだろうか。

1.まず、問い合わせ
「まだ展示してますか?」と電話で質問してみる(TEL:03-5245-4111(代表) / 03-5777-8600(ハローダイヤル))。ついでに、「いつまで展示してますか?」と聞いてみる。「もう撤去されました」と言われたら、「では、行きませんから良いです」と伝えて電話を切る。まだ展示されていた場合は2以下へ。

2.行ってみる
朝の時点で撤去されていないことを確認したら、現代美術館に行ってみる。

3.友の会について問い合わせる
敵は友の会のたったひとりである。ならば、数で勝負である。友の会の会費は個人で1,500円、家族で3,000円と、他の美術館に比較してもかなり安い(サントリー美術館のメンバーズは5,000円、三菱一号館美術館サポーターとトーハク友の会は10,000円程度)。なので、「友の会に入ろうかと思ったのですが、会田さんの作品が撤去されるなら入りたくありません」と聞いてみる。

4.観てくる
撤去方針継続なら友の会に入会せず、撤去方針撤回なら友の会に入会して、展示を観てくる。なお、「ここはだれの場所?」展は1,000円。友の会に入会すると50%オフで入会金と合わせて2,000円。

#ちなみに会田氏とは面識がないのだが、ずっと昔から山口晃さんを応援していて、会田氏との合同展覧会が良くあったので、彼の作品は昔から観ているし、ミヅマが飯田橋に移ってからは「劇団☆死期」の芝居を観たり、もちろんこれも大問題になった森美術館の「天才でごめんなさい」も観ている。「ジューサーミキサー」や「大山椒魚」などは大好きな作品である。

「えーーー、そんなの、面倒臭いよ」という人とか、「行きたいけど、遠距離だから無理」という人は、プランBとして、メールしてみるという手もありそう。

東京都現代美術館 お問い合わせ
http://www.mot-art-museum.jp/museuminfo/contact.html

この手の苦情メールはプリントアウトされて偉い人の机の上に置かれ、出勤してきた偉い人がそのまま読まずに下っ端に「どこかにファイルしておいて」手渡して終了、なんてことになりそうだけどね。

これは、会田誠と東京都現代美術館の対決じゃなくて、東京都現代美術館のお偉方(ただし、馬鹿)と、美術館の現場の対決だと想像する。僕達にも、心ある、だけど、上司にはどうしたって反発しきれない現場を支援することができるかも知れない。今回の騒動がずっと上の方からの圧力ならあまり意味がないかも知れないが、美術館の偉い人の個人的見解で起きているなら、撤去や改変については撤回となるかも知れない。

山口晃さんはだいぶ前に「あの人についていっても何もない」と笑っていたけれど、結構色々あるので、外野の前の方で観ているのは面白い。

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