2016年02月07日

スキーヤーやボーダーがゲレンデで考えておかなくてはならないこと

またスキーで人が亡くなった。

良く聞くのはバックカントリーに出て雪崩に巻き込まれた、とか、帰り道がわからなくなってそのまま凍死、とか、立木に衝突、とかなのだが、今回は一般ゲレンデで滑走中に衝突したらしい。

スキー教室衝突死 教師ら「事故、見ていなかった」…広島
http://mainichi.jp/articles/20160204/k00/00m/040/165000c

この件、記事はあたかも児童を見渡すことのできない場所にいた教師が悪いみたいに書かれているが、
児童の指導役の教師ら2人が「事故の様子は見ていなかった」と話していることを明らかにした。2人とも児童を見渡せる場所にいなかったという。

実際のところ、全てを見渡すことができる場所を選ぶのは難しい。これは環境省の規制によって幅の広いゲレンデを作れないこともあるし、スキーヤーの技術レベルがアップすると、そうそう短い区間で区切って滑走させることもできないからだ。この記事によれば今回事故にあった小学生は事故に遭うまで上級者コースで滑っていたとのことで、レベルはそこそこ高かったはずである。「常時、ちゃんと見張っていろ」というのも難しい。僕達が日頃行っているポールトレーニングでも、スタートからゴールまでを完全に監視することはまずない。

また、同じ事故についての記事でこんなものがある。

小6女児死亡 スノボ男性と衝突
http://mainichi.jp/articles/20160203/k00/00m/040/010000c

この記事ではあたかもスノーボードが悪いみたいな書き方をしているのだが、
スノーボードについて、同協議会の富樫泰一調査委員は「動きが直線的なスキーとは異なり、大きな弧を描いて滑るので衝突の可能性が高くなる。横乗りのため、背面方向が見えないという危険もある。その一方で若い愛好者が多く、注意力が散漫だったり自信過剰だったりする人もいる」と指摘する。

それもどうか。例えば、先日、僕が滑っているところをGoProで撮影した動画があるのだが、そのラスト近くではスキーヤーとボーダーの両方が近くに寄ってきて、滑ってる側はちょっとビビっている。

https://youtu.be/V2mKeEYeSEA?t=128

別にボーダーが悪いわけではなく、ゲレンデで滑っている以上、滑っている人間はいつでも危険と隣り合わせだということだ。ちょっと流して滑っていても上級者なら時速40キロぐらいはすぐに出てしまう。このビデオの前半だと、斜度があるのでもっとスピードは出ているだろう。僕のようなレーサーは特に長くて曲がりにくい板を使っているので、緊急回避が難しく、「危ないところには近づかない」というのが最大の事故防衛手段である。
いつでも人を避けられるようスピードをコントロールする

なんてことが書いてあるが、こんなことは実際には無理である。少なくとも、大回転用の板を使っていたら絶対に無理だし、これを要求したら、少なくとも競技スキーの練習はできなくなってしまう。

もちろん、レーサーは誰でも一般ゲレンデを滑るときは周囲に気を配るものだ。僕だっていつでも配慮するし、危険回避のための急なスキー操作も避けられないので、滑り終われば膝や腰に痛みが残る。それでも、「いつでも人を避けられるようスピードをコントロールする」なんて机上の空論に過ぎない。スキーに限れば、カービングスキーの登場以降、板はずれにくくなり、いわばレールの上を走っている状態なので、特にターン後半でスキーの軌道を変更するのはとても難しい。競技用の長い板になれば、なおさらである。

記事によれば、事故にあった小学生はヘルメットを着用していたようなので、できるだけの防御はしていたんだと思う。それでもなお、事故が起きてしまったことは非常に残念なのだが、運が悪かったとしか言い様がない(もちろん、今後の詳細な調査によって、誰かの過失が明らかになる可能性はあるのだが、現時点では読み取れない)。

僕の場合、加害者にも、被害者にもなりたくないので、まず、混雑しているスキー場にはなるべく近づかないようにしている。また、スタート地点で待機していて、下手なスキーヤー、ボーダーが滑りだした直後には滑走を開始しないようにしている。上に掲載したビデオは滑走場面だけを切り取って掲載しているのだが、実際にはかなり長い時間、スタート地点でスタンバイして滑りだすタイミングを計っている。あと、もちろんヘルメットは常時着用している。以前、知り合いの馬鹿が別の知人に「ヘルメットって必要?」と相談された時に「スキーでヘルメットとか、格好悪い」と笑っていて、こいつは本当に馬鹿だな、と感心するとともに、相談していた人にはあとで「絶対に着用したほうが良い」とアドバイスしたことがあるのだが、何が起こるかわからないのだから、自分の身を守るのは当たり前の話である。格好が良い、悪いではない。もし、事故っても、「ヘルメットなんて格好わるいから要らない」とアドバイスした馬鹿は絶対に責任を取らないのだから。僕の周りのスキーヤーには、ヘルメットを使わない人間は一人もいない。

いくら自己防衛しても事故は起こりうるのだが、結局のところ、各人がそれぞれに自己防衛するしかない。高校生の時、学校の先生が「君たちはおとなになったらみんな運転免許を取得するだろうが、車を運転するということは、日本刀を持って道を走るようなものだ。そのことを良く覚えておくように」と語ったことを今でも覚えているのだが、それはスキーやスノボでも同じである。

この記事へのトラックバックURL