石田純一の都知事立候補にあたり、こんなニュースがあった。
石田純一「数日で何百万、何千万」出馬表明で違約金
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160709-00000130-nksports-pol
この記事に対して、Facebookの友達である平川秀行氏が「政権に対して批判的立場で立候補をほのめかしただけで社会的に袋叩きにされる」という意見を表明していたのだが、果たしてそうだろうか。これまでに企業や特殊法人の広報を担当し、何人もの芸能人のウェブサイト運用を手伝い、政治家が運営するネットテレビ局の運営の手伝いをし、ネットテレビ局のメインキャスターとして1時間の生番組を週二回、2年以上やってきたりした実績をもとに、主として「タレントのイメージ」について考えてみる。
CM出演料を出す立場が一番偉いし、主役でもあるので、まず広告主の立場からタレントのイメージを考えてみる。CMは広告主のイメージを決定づける重要なコンテンツなので、それに出演する俳優には少しでも良いイメージを持っていて欲しいのは当然のことである。誰が好き好んで悪いイメージのタレントを使いたがるものか、ということだ。また、大抵の場合はCMに出演するタレントはすでに何らかのカラーが付随しているので、そのイメージが自社や商品のイメージに合致している必要がある。たとえば吉高由里子なら三井住友のカラーがついているので、他行の担当者は起用しにくい。
#というか、それ以前に三井住友から「他行とそのグループのCMには出てはいけない」という制約がつけられているはずだ。
そして、出演するタレントには、CMを流している間中、余計なカラーがつかないことを要求する。清廉なイメージがあるからといって起用したタレントが、CMを流し始めた後に消費者金融やパチンコのCMに出てしまったら、「え?」となるはずだ。そして、こうした事項については、契約書で「イメージを損なわないように」と抽象的に書かれているはずだ。なぜなら、個別具体的に「これはダメ」と書く形式だと、漏れがある可能性があって「これは書いてないからオッケー」と曲解されてしまうリスクがあるからである。これは契約業務では非常に一般的な話で、主契約書は曖昧に書いて、あとは覚書にまわしたり、別途相談としたりするのが当たり前である。このあたりは企業の代表として弁護士を含めて契約業務をやったことがある人なら誰でも知っているはずだ。
また、イメージを損なう可能性がある活動を希望する場合には、両者で事前相談する旨、主契約書に記載されているのもほぼ間違いない。ちなみに、「可能性のある事項」は広告主が求めるイメージ次第で、ライザップなら太らないとか、独身っぽいイメージが売りなら結婚しないとか、保険会社なら交通事故を起こさないとか(これはわざと事故を起こすはずがないので、不可抗力で事故が起きないように、最初からハンドルを握らないことになったりする)、お酒のCMなら妊娠しないとか、山ほど想定されるし、わざわざ記載しなくても、犯罪を犯さないといった条件も言外に含まれているはずである。
そうした様々な条件と引き換えに、広告主はタレントに対して高額の契約料を支払うことになる。若いタレントでも数千万円単位の契約料をもらえる背景には、こうした様々な制約が存在する。彼らが売っているのは、イメージそのものであり、イメージが商品なのだ。
次に、CMに出るタレントの視点から考えてみる。タレントにとって、イメージは最も重要な要素である。たとえば一度ダイエット食品の広告に出てしまったら、食いしん坊万歳には出演しにくくなるだろう。CMに出て無色透明でいられるはずはないので、今後、そのタレントをどういうカラーで売っていくのかについて、タレントと事務所で相談して、出演CMを慎重に選んでいくことになるはずだ。
前述の吉高由里子で言うなら、今では三井住友のカードローン、みたいに決して良くないカラーがついてしまった。一度定着したイメージはなかなか払拭できないので、「当分これでやっていく」という覚悟も求められる。このように、タレントとしてもCM出演は冒険になる。
テレビ局のサイドから見たらどうだろう。中立で不偏不党と思っていた、自局の番組のCM出演者が突然都知事選挙に立候補してしまえば、困ったことになる可能性も少なからずある。たとえば報道ステーションのCMなら、視聴者だって「あれ?この番組は特定政党に偏った番組なの?」となる。さらに、実際に立候補した場合は、選挙期間中にCMを流すことができなくなる。これはCM出演者側の自己都合なので、テレビ局には何の落ち度もないが、代わりに何かを流す必要が生じて、その手配はテレビ局と広告代理店の仕事になる。
こうしたもろもろを調整するのは、有名タレントの場合は主に広告代理店やタレントの事務所だろうが、彼らとしても余計な仕事が増えることは間違いなく、少なくとも事前にちゃんと相談してくれよ、という話である。
さて、ここでタレントが野党の統一候補として(別に自民党・公明党の候補でも構わないが)都知事選に出馬したらどうなるか。そのタレントがそれまで政治的に無色透明であれば、広告主たちは椅子から転げ落ちるほどにびっくりするだろう。都を二分するような政治的課題が存在するなら、大雑把に見ても、都民の半分からは反感を買うことになる。それまで0のイメージだった人たちが、プラス100とマイナス100に分かれてしまうことになる。2ちゃんねるなどを見ていてもわかるように、日本ではポジティブな感情よりもネガティブな感情のほうが表出しやすい傾向があり、企業はこのネガティブなイメージを非常に恐れる。
また、石田純一の場合も該当するが、これまでにも多くの政治的発言を繰り返していたタレントや、あるいは石原良純のように親や兄弟に特定政党の政治家を持つ人間だとしても、立候補するとなればそのカラーは決定的になる。曖昧なカラーと決定したカラーは大きく異なる。職業として政治家を選ぶのであれば、曖昧なカラーではありえない。
繰り返しだが、CMタレントが売っているものは「イメージ」そのものである。一般論でいえば、政治や新興宗教はイメージが売り物のCMタレントにとって最もtouchyな話題である。主義主張や信仰がだめなのではなく、それが明確化することが広告主から敬遠される。人権がどうとか、そういう話ではなく、そういうものであって、嫌ならCMタレントとして経済活動をやるべきではないのである。
つまり、今回の石田純一の立候補示唆は、自民党に批判的な立場だったから疑問を呈されたのではなく、おそらくCMに出演しているタレントとして、ビジネスパートナーから契約違反を指摘されたに過ぎない。また、この文章ではCMについて書いてきたが、ワイドショウのコメンテーターとしての出演などでも事態はほぼ同じである。
ここまで書いてきたことはほとんどが一般論である。個別具体的には実際に石田純一が交わしている契約書の内容を精査する必要があって、それは弁護士や裁判所の仕事である。この辺は法律やら契約やらの話で、政治とは関係がない。もともと石田純一の場合は脱原発を明確にするなど反自民色を明確にしているタレントなので、「主張が反自民党だから」という理由だけで違約金がどうのこうのという話に発展するとは考えにくいところがある。
今回の事象は芸能界の一般的なルールから外れているので、違約金が発生するかもしれないという石田純一の発言を以って「反自民だから」とやらかすのは被害妄想に感じられる。良いものは良い、ダメなものはダメと冷静に、是々非々で判断する必要があって、そういう視点がないと、「あの人はちょっとおかしい」と疎まれてしまう。そうした溝がどんどん深くなると、今の社民党のように孤立無援になっていく。
僕は平川氏に対して「通常の契約なら禁止事項や事前調整の必要性についてはきちんと明記されているはずで、その契約内容の確認もなしに「これはひどい」と喧伝するのはヒステリーに見えます」と書いた。もちろん、精査してみれば平川氏の指摘するような事態が背後には存在するかもしれない。しかし、現段階では、常識的にみておかしいのは石田純一の方だ。そして、ただでさえ叩かれやすいのが政治家である。その余地をふんだんに残したままで立候補を示唆したことは軽率と言えるだろう。
#今回は、この話題について僕が経産省時代に省庁横断的委員会を開いたときの委員だった平川氏と話している最中に、呼んでもいないのにカスが小じゃなく春日匠とかいう馬鹿がスレッドに乱入してきて、「奴隷制につながる契約や臓器売買を前提とした契約と同等で無効であるべきだ」とか書いてきて呆れたのだが、この馬鹿は恐らくこれまで民間企業同士の契約業務を担当したこともなければ、広報活動のプロとして社会活動もしたことのない脳みそお花畑の人物であろう。臓器売買と政治家立候補禁止が同列って、どこかに似たようなタイプがいたな、と思い返してみたら福島瑞穂だった。Facebook上の公開されたやりとりなので横から会話に参加してくること自体は何の問題もないが、どこの誰とも知れない人物が、主張の背景すら表明せずに馬鹿を晒すのは迷惑行為である。やりとりをキャプってこのブログで紹介しようとしたら「ツイッターでやってくれ」とか言ってくるし。以前、キクマコ氏の取り巻きに粘着されてから、ああいう匿名メディアでは時間の無駄だから議論はしないんだよ。目障りな奴はどんどんブロックするけれど、その手間までもが馬鹿らしいから、こういう馬鹿とは関わらないに限る。僕の中には馬鹿リストが存在していて、榎木英介とか、内田麻里香とかが該当するのだが、春日匠という名前も追加しておいた。小物すぎて全然知らないけど(笑)、これとこれは同じ、と言いながら月とスッポンほども違うものを列挙する奴にまともな奴はいない。
歌手が、「コンサートで歌う約束をしたけれど、歌を歌いたくなくなったので歌うのはやめるって言ったら、『もうチケットを売っちゃったので損害賠償だ』って言われた」とか言いだしても、「本人が歌いたくないって言ってるんだから、無理やり歌わせるのは人権侵害だ。それは臓器売買を前提とした契約と同じだ」とは言わないでしょ?(こっちは上手な類似事例の提示だな(笑))
なんで科学コミュニケーション関連ってろくでもない奴が大勢いるんだろうね?あ、日本の科学コミュニケーションって、科学のメインストリームで使い物にならない奴らの受け皿だから?
ともかく、アベノミクスは馬鹿だし、自民党の憲法草案も馬鹿だし、安保法も馬鹿だし、安倍晋三も馬鹿だけど、批判すべきところと批判すべきではないところはきちんと見分ける必要がある。クソも味噌も一緒にしてしまうようなら、「あいつは電波だから」と一括りにされて、正しい主張も埋もれてしまう。
あと、専門的な話には、ど素人は付け焼き刃の知識で首を突っ込まないほうが良い。ちなみに僕は慎重なので、この文章も公開前に広告代理店の知人に「おかしなところはない?」と問い合わせ済みである。回答は「その通りだし、何の問題もない」であった。
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