2016年11月09日

館・游彩「THE IROE展」

目黒の館・游彩で開催中の「THE IROE展」を見てきた。4人のグループ展で、このうち富田美樹子さんと牟田陽日さんは作品をもっている。

目的は牟田さんだったのだが、新しい芸風を試しているようで、今まであまりやってこなかった、油絵的な表現の作品が多かった。

牟田さんと言えば、僕は七宝紋や網目紋のような幾何学的・伝統的な紋様にカラフルで繊細なデザインを融合させた作品から入っていて、その後にクジラや、山水画をモチーフにしたアート作品を買ってきた。一貫して、彼女のウリは細い線で、クジラの作品における波しぶきの表現は彼女ならではだと思う。絵のルーツは江戸時代の水墨画や浮世絵などだったと思う。また、赤絵などの九谷ならではの表現も取り入れ、東アジアにおける新旧を上手に融合させているのが味だった。

それが、今回はガラッと変わって、油絵調なので、これはファンも、ギャラリーも、ついて行くのが大変だ。今回出展されていた絵皿がポンと置いてあっても、牟田さんのそれと気付く人はほとんどいないだろう。クイズのようにして「これ、誰だと思う?」と聞かれれば、最近彼女が良く扱う鹿がモチーフなので、正解する人はいるかもしれないのだが。

この、細密画から、油絵への転換は、いわば職人から芸術家への拡大で、同じ日に見たミヅマの山口晃個展で感じたものと同じだった。山口晃さんは大和絵によってファンを増やしてきた作家さんで、その後、現代アートっぽい立体作品なども発表してきたのだが、やはり持ち味は何と言ってもしっかりしたパースの中に描かれた細かい建物や人物、あるいは武者絵とバイクなどの近代マシンとの融合だった。それが、今回はかなり大胆に抽象画を描いていた。

#ただ、山口さんの場合は単に描きかけなだけなのかもしれないのだが。

工芸ラインの上にあると、その作品の評価のバックは、どれだけ時間をかけたか、という、作業量になる。一方で、美術ラインだと、作業量や背景などはそれほど重要ではなく、どれだけ大きなインパクトを与えたかが重要だ。工芸は既存の作品からの伝統をどう取り入れて、どう消化するかが問われるのだが、美術はそういった要素はあまり関係ない。この観点からすると、美術には非常に大きな自由度があるし、評価は青天井だが、評価はなかなか高くならない。観る人を感動させるのはそれなりに大変だからだ。一方で工芸は評価のフォーマットがある程度確立されているので、自由度はないものの、この位の技量なら、価値はこの位、といった感じに評価を受けることができる。ただ、その評価の上限は、今の陶芸で言えば見附正康さんあたりがハイエンドだろう。

工芸と美術の境界はあいまいだが、その線引きは「価格」という二次的な数値から類推できると思う。茶碗なら、一つ10万円ぐらいまでなら工芸、それ以上になってくると美術の成分が含まれてくる、という感じである。

そうした中で、牟田さんは美術領域に足を踏み出しつつあるのかもしれない。ただし、まだ力強さは感じられない。ファンはついてきてくれるかな?という感じで、恐る恐る踏み出した感がある。それは、作品の価格から感じられた。サイズから考えると、これまでの牟田作品に比較すると随分安いからだ。ただ、多分、作業量はそれほどでもない。作業量からすれば、価格は妥当なのだろう。この辺の、作業量と価格をリニアで考えてしまうあたりが、まだ工芸の領域に軸足がある証拠なのだ。

価格で言えば、若手工芸家の中ではハイエンドで、場合によっては見附さんよりも高い価格でも売れてしまう牟田さんだが、これからどうやって工芸の枠を打ち破っていくのか、興味深く見守りたい。

僕は今回の皿は買わなかったけれど。でも、こういう文章を書きながら、検討は継続中である。

ちなみにこのギャラリーは初めて行ったのだが、河端理恵子さん、田畑奈央人さん、植葉香澄さんといった馴染みのある作家さんの作品が置いてあった。きっとその筋では有名どころなのだろう。

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