2016年12月21日

「先生」考

こんなつぶやきを見つけたが、




僕も「先生」という呼び名は大嫌いなので、ほぼ使わない。唯一、小学6年生の時の担任教師だけは先生と呼ぶのだが、あとは日常生活で使うことはない。

また、人生において、「先生」と呼ばれる可能性のある職に就いたことが一度あるのだが、その時は先生と呼んだら単位をあげないと一番最初に伝えた。

#このコンテンツとは関係ないが、講師時代の話はこちらのエントリーなど、参考に。

今年の講義で僕が教えたこと、教えてもらったこと
http://buu.blog.jp/archives/50962849.html

「先生」という呼び名が嫌いなのは、現象として、先生と呼ばれている人にろくな奴がいないからである。この感覚は大学生ごろから僕の中に定着して、以後、先生という呼び名は敬称ではなく蔑称となった。その端緒は、おそらく東工大の大学の研究室時代だろう。部屋の先輩のなかにちゃらん先生とぽらん先生とあだ名されている二人がいて、それは当時三菱化学生命研にいた堀さん(今は多分愛媛大)と同じく東大大学院博士課程にいた浅川さん(今は多分慶大)のことだったと思うのだが、彼らをからかうようにして先生、先生と呼んでいる渡辺公綱さんと上田卓也さんを見ていて、そう思うようになったんだと思う。以後、大学院時代の指導教官をはじめとして、全ての目上の人、あるいは指導してもらう人も、自分の主治医も、全て「さん」づけで呼んできた。

また、安易に先生という呼称を使う人も、好ましく感じないことが多い。たとえば僕が経産省で課長補佐をやっていたとき、講演に行くと、僕のことを「元木先生」と呼ぶ人(主に地方公務員)がちらほらいたのだが、彼らは「先生と呼ぶのはやめてください」と言っても、やめることはなかった。本省の役人は、彼らにとっては絶対的な存在なのかもしれないが、それは例えば「課長補佐」という役職を持った人間に対してのもので、僕がその役職を退けばただの「元木」である。だいたい、当時の僕の年齢は30代前半で、彼らよりも先に生まれたわけでもなく、また、その地方の行政的知識は彼らの方が上であるべきなのだ。先生という呼び名は全くふさわしくない。こういう話を、講演のあとの飲み会で彼らに開陳したこともあるのだが、全く理解を得られなかった。彼らとしても、たいていの役人は先生と呼んでおけば間違いがないので、僕のような異端のことをいちいち覚えていて、対応を変えるのは面倒だったのだろう。

そういう姿勢が透けて見えるのも嫌いなのだ。

今でも、例えば医者ばかりの飲み会に参加すると、彼らはみんなお互いに先生、先生と呼び合っている。あるいは陶芸家同士なども、ときどき相手を先生と呼ぶことがある。これが、師匠と弟子みたいな関係なら当然なのだが、そういう上下関係がない人同士でも、あるいは客が作家に対して使っていることもあって、非常に大きな違和感を持ってしまう。

では、先生と呼ばれている人にろくな奴がいないように見えるのはなぜか、ということも考えたことがあって、その理由の最大のものは、先生と呼ばれる人の多くは、間違いを犯すことが許されず、そしてその延長として、自分の間違いを認めたがらない傾向にあるからだと思う。彼らほど、面と向かって「それは間違いです」と指摘された時に様々な言い訳を用意して言い逃れしようとする人たちをみたことがない。政治家、教師、医者、弁護士、芸術家・・・・先生と呼ばれる人の多くがこういう傾向にあると思う。良い大人が「先生」という言葉を使うなら、それは言う時も、言われる時も、相応の覚悟と注意が必要だと思っている。中には、学校の教師と生徒のように、先生という言葉が何の違和感も生まない場面もあるのだが、教師自身はその感覚を学校以外に持ち出さないように配慮する必要があるだろう。政治家にしても、医者にしても、それができず、自分の専門領域以外でも自分の非を認めることができない人が多いから、ろくな奴がいないと感じられてしまう。

#もちろん、全部ではなく、ちゃんとした医者や政治家や芸術家もいる。

冒頭の引用に「皆でさん付けで対等に話し議論する」という一節があるが、まさにこれで、先生となった時点で対等ではなくなるのだ。それが、先生と呼ばれる人の専門分野なら話はわかる。たとえば、血液内科の医者と白血病について話しているのなら、その内科医は先生と呼ばれるにふさわしいだろう。しかし、その内科医と飲み会でアベノミクスについて話すなら、先生はふさわしくない。場面場面でふさわしさが変わってしまうなら、それはそもそも呼称としてふさわしくないと思うのだ。それなら最初から「さん」で十分ではないか。

一番馬鹿なのは、自ら「先生」と呼ばれたがる奴だけど、今の所、僕の周りにそういう奴はいない。これはとてもありがたいことである。

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