2017年05月05日

河鍋暁斎「猫とねずみ」

DC界隈で開催されるイステート・セールはほぼ全てチェックしているのだが、これまでに見つけた「すごいお宝」は吉田博の版画だった。そのときは大作を含めて一挙に5、6点の販売だったのだが、資金に限りがあって1つしか買うことができなかった。こういうのは出会いなので、縁がなかったと諦めるよりない。

先日、いつもと同じようにイステート・セールをネットでチェックしていて、椅子から転がり落ちるほど驚いた。そのイステート・セールでは全部で4点の版画が出品予告されていたのだけれど、そのうちの一枚が河鍋暁斎だったのだ。しかも、証明書付き。これはやばい。何しろ、僕は乾山の焼き物と暁斎の絵が大好きなのだ。一番好きと言っても過言ではない。

ただ、イステート・セールの商品紹介には良くあるのだが、誰の作品とは書いてない。掲載されていた写真はこんな感じである。
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紹介コメントは「You will find a nice collection of Japanese Woodblocks with Certificate of authenticity.
」と書いてあるだけで、どこにもKawanabeとか、Kyosaiとかの文字は見当たらない。日本人ですら、光琳や若冲は知っていても、暁斎を知っている人はそれほど多くはないと思う。ましてやここは米国である。ほとんど全てのDC住民にとって、ただの古い日本の版画、ぐらいの認識だろう。これはチャンスである。今の世の中、知識は最大の武器なのだ。

セール開始は5日金曜日の午前10時だ。

これが本物で、かつ手の届く金額なら、絶対に入手しなくてはならない。ここでモノを言うのが、かれこれ50軒は行ったであろう、過去のイステート・セールの経験である。何時に、どういう装備で向かい、開始直後にどうやってターゲットまで一番にたどり着くか。過去の経験から蓄積したノウハウを総動員した。

まず、朝は6時に起床して、早々に準備を整えて出発。セールの家に着いたのは開始時間の2時間以上前だった。僕の順番は3番。前には中国系の男性と、白人女性が並んでいた。ちょっと話をしたところによれば、一番の男性は昨日から並んでいたらしい。それでも3番である。「最も理想的な展開」とは言えないが、少なくとも開始直後に家の中に入ることはできるはずだ。この一巡目というのがとても重要で、大抵の場合は先頭の10人ぐらいで一度入場をストップされてしまう。逆に言えば、この第一陣の中に入れば、お宝ゲットの確率はぐんとアップする。

時間を潰すのは苦にならないので、珍しく大雨の中、家の軒先に折りたたみの椅子を広げて座って、ネットサーフをして待つことにした。このあたりの装備の充実具合が経験の為せる技である。そして、待つこと2時間強。勝負の時間がやってきた。一番と二番の人は一階の本棚をチェックしているようなので、階段を登って二階へ。全ての部屋の壁と階段の壁をチェックしたのだが、版画は見当たらない。あれ?そこで、家主と思われる高齢の女性に「日本の版画はどこですか?」と尋ねると、彼女は目の前にあるテーブルの上の紙を指差した。なるほど、壁に飾っていなかったのか。紙は束になっていて、一番上に「取り扱いには注意するように」と書いてあった。オッケー、オッケー。早速紙の束をチェックすると、二番目に河鍋暁斎の「猫とねずみ」を見つけた。件の女性に聞くと、米国のオークションで購入したとのこと。状態も良いし、驚くほど高額ということもない。一応裏を返してきちんと版画であることだけは確認した。しかし、明治から昭和前半の、川瀬巴水や吉田博の作品とは違うので、他にどこをチェックしたら良いのかはわからない。もたもたしていて誰かに横取りされても困るので、その場で即決購入した。おばあさんは「あら、新券ね」と新札の100ドル紙幣を手にして、嬉しそうに枚数を数えている。僕も嬉しい。

あとは悪質なコピーではないことを祈るしかない。今度日本に行くときに、河鍋暁斎記念美術館に行って本物かどうか聞いてこようか。

ということで、無事、目標の作品を入手できたので、家に帰って、早速鑑賞してみた。




猫がねずみを肴に月見をしている。

額縁屋さんを探さないとだな。