日本へ帰ってしまう在米日本人による引越しセールで見つけたので、購入して読んでみた。
まず最初に気になったのが、「一回忌」という言葉の誤用である。通常、一回忌という言葉を使うことはない。一周忌(死後一年目)、三回忌(死後二年目)、七回忌(死後六年目)と続いていくものである。一回忌とはすなわち葬式のことで、葬式から一年後についてのみ、一周忌という言葉を使う。これは日本の常識で、身近の人間を亡くして法事を主催したことがあれば、誰でも知っていることだ。そこを間違えて、文庫の20版まで刷っているのに修正されていない時点で、作家も、編集者も、日本の文化に対して大した常識を持ち合わせていないことがわかってがっかりする。この本は、古書という、日本文化の一部に関する深い造詣がメイン・テーマなのに、である。そうやって、冒頭の25ページぐらいで「ろくでもない」と感じてしまうと、どうしても粗探しをしながら読むことになってしまう。
登場人物たちの言動や行動はそこここで不自然で、「こんな会話はしないだろ」とか、そんな行動は必要ないだろ、とか(たとえば、首から下げている鍵を取り出すにあたって、わざわざパジャマの一番上のボタンを人前で外したりはしないだろう。外さなくても取り出せるし、取り出せないなら後ろを向いて、人目を避けるのが自然だ)、病院の屋上で一悶着あった描写の最中に、なぜか留置場の面会室に場面がかわってしまっていたり、とにかく書き方が雑なのだ。これらは、通常なら編集者から赤ペンが入ることがらで、作家目線からはちょっと考えられない話である。作家は、書いている時点では自分の文章を客観的に読めないし、言葉足らずで、自分では説明しているつもりでも、実際にはそうなっていないことも良くある。だから、作家が下手というよりは、編集者の能力不足である。僕は編集者ではないけれど、仮に編集者なら、間違いなく指摘する。
推理ものなのに、推理が雑な点も少々いただけない。因果関係が間違っているのではないけれど、たくさんある可能性を残したまま、主人公が犯人を断定してしまうので、とても不自然な印象を受ける。
推理小説としては二流。ただ、古本に関する豆知識としては、悪くない。まだ直してないなら、今からでも遅くないので、一回忌という記述だけでも直して欲しいものである。評価は☆1つ。