2018年02月03日

Weeping Angel を巡る冒険

ことの発端は、ニュー・オーリンズ到着日に見つけた、フレンチ・マーケットの入り口近くで写真を売っているおじさんだった。彼はニュー・オーリンズの風景を写真に撮って、簡易パネルにして販売している写真家だった。その中に、なんとも味のある彫刻の写真があった。どうやら、天使が机に伏して泣いているような像だ。しかし、それが何の像なのか、どこにあるのかはわからなかった。

その場はさっと通り過ぎたのだが、夜になって食事をしていると、どうも気になる。そこで、google様に聞いてみた。すると、さすがはgoogle様、「new orleans angel」あたりで画像検索をしてみて、ほぼ同じ構図の写真を発見した。タイトルはWeeping Angel。日本語にすれば「嘆きの天使」「嘆く天使」あたりだろうか。しかし、日本語でこの彫刻を取り上げた記事はほとんど見当たらない。おそらく、誰も知らない、観光ガイドにも載っていないような彫刻なのだろう。ちょっと不思議だったのは、彫刻を写した写真の構図がほとんど同じで、3種類ぐらいしか見つからなかったことだ。

場所は、カナル通りのトラムを終点まで行ったところにある墓地の中で、誰かのお墓の墓石のようだ。今回の行程の中に導入するにはちょっと時間がない。また、墓地まで行ってみたところで、中に入れる保証もない。情報が足りなすぎて、2泊3日の行程に入れ込むのには無理があると思った。そこで、写真だけでも買っておこうと思い、最終日の午前中におじさんのところへ行って、20ドルほどのパネルを一枚購入した。

それから市場や街中を散歩して、昼ご飯を食べて、予定していた場所へ行こうとしたのだが、今日は午後からパレードがあるらしく、乗るつもりでいたトラムが運休になっていた。僕は早めにランチを食べて、その後で郊外の町並みを見て歩き、それからフレンチ・クオーターに戻ってパレードを1時間ほど見て、Uberで空港へ向かう予定でいた。しかし、予定外にトラムが運休になってしまい、3時間ほど、やることがなくなってしまった。

いつもなら、こういう時はスタバに行って、充電しながらうだうだするところなのだが、今日はちょっと事情が違う。せっかく時間が余ったのなら、やはりあのWeeping Angelを見にいくべきだろう。墓地に入れなければ、それはそれで仕方ない。スタバでうだうだしているよりはよっぽど生産的である。

そこで、フレンチ・クオーターの外側まで歩き、運行しているカナル通り沿いのトラムに乗った。



フレンチ・クオーター内は運休だったため、駅には折り返し運転のトラムが山ほど停まっていて、待ち時間もほとんどなく快適だった。



終点に着くと、客は僕以外には東欧から来たように見える長身のカップルだけだった。彼らはトラムから降りると、スマホを取り出してキョロキョロしている。多分、目的地は同じだろう。そう思いながら、僕はgoogle Mapが指し示す方向へと歩き出した。数百メートルあるいて、太い道を渡った先に、METAIRIE CEMETERYがあった。



幸い、入場制限などは行われていないようだ。しかし、平日の墓地なので、案内人などは不在である。ちょっと後ろを見てみると、さっきのカップルも20メートルほど後ろを歩いて来ていた。

さて、このだだっ広い墓地の中で、どうやってWeeping Angelを探したらいいんだろう、と思いつつ、google Mapを開いてみると、なんと、写真スポットマークがあって、「ここだよ」と提示してくれている。さすが、google様である。件のカップルは見当違いの方向へと歩いて行ってしまった。

そして、google様が示す場所へ。



他の建物と全く同じ、何の変哲も無い建物である。google様がここと言ってくれなければ、絶対に見つけることはできない。

墓に近づいて、鍵のかかった扉の窓から覗くと、確かに、そこにはあの天使がいた。



しかし、墓の中には入れない。厳重に施錠されている。この角度からしかみることができないようだ。仕方なく、そのアングルから何枚か写真を撮った。撮り終わった頃に、例のカップルがやってきた。こういう要領の良さは、日本人はそうそう他国の人には負けないものだ。

笑顔で、「ここから見えますよ」と余裕をかまして、ぐるっと周囲を見て回ることにした。そこで見つけたのが、ステンドグラスの破損である。少々分かりにくいが、右の上に割れた部分がある。ここから覗くと、まさに、あのおじさんが売っていた写真の構図になるのだ。



この穴に一眼レフのカメラを突っ込むのは無理だが、スマホならいける。僕は、iPhoneを落とさないように注意して、その穴からiPhoneを中に入れた。残念ながら、モニターはステンドグラスの向こう側なので、何が写っているかはわからない。そういう状態で、10枚ほど、色々角度を変えてシャッターを切った。なるほど、この状況では、いろいろな構図で写真を撮るのは、部外者には不可能である。

これが、僕が撮った写真である。



撮り終えた頃には雨が降り出していた。コートの襟を立てて、僕はトラムの駅に向かった。風が強く、指先は冷えていたけれど、今回の旅行で一番の冒険を終えてとても満足していた。埋葬されている人を嘆いている天使には、ちょっと申し訳なかったのだが。



なお、買ったパネルはこれ。