2019年06月07日

キャラメルボックス(のネビュラプロジェクト)が倒産した件

キャラメルボックスの運営を担っていたネビュラプロジェクトが破産した。

僕はある時期集中的にキャラメルボックスの舞台を観て、さらには破産したネビュラプロジェクトの代表だった加藤氏とも楽屋裏でビジネスの打ち合わせをしたことがある。そういう立場から、この、小劇場の中では比較的集客力のあった劇団の終焉の理由について書いておきたい。

僕は多分、キャラメルボックスの15、6本の芝居を見た。最後の方はすっかり飽きてしまって、「ファンのファンによるファンのためのお子様ランチ的なキャラメルボックス」と評するほどになっていたのだが、この劇団の弱点は大きく二つあって、一つ目は劇団付き作家の成井豊氏の能力不足、二つ目は若手役者の育成能力の欠如である。二つ目は「そんなのは、ベテランの芝居を見て盗め」ということかもしれないのだが、それにしても大声で怒鳴るだけで、メリハリのない演技をする若手ばかりだった。そして、当然ながら一つ目は深刻である。では、どう能力不足なのか。簡単にいうと、物語が単調で、盲導犬に案内されているような話ばかりなのである。観たまんまなので、観る側で考える余地がない。これは推理小説にありがちだが、何度観ても、感想が同じなのだ。本は、読むときによって読後感が違うから、本棚にしまっておいて、時々引っ張り出してきては読み返す。それぞれに受ける印象が異なる本ほど、名作と呼ぶにふさわしい。そして、成井氏の作品は、この逆なのだ。観る側でイメージを膨らませることがないので、一度観れば十分になる。加えて、同じようなストーリーの作品を書くものだから、既視感までが生まれてしまう。一口目だけは美味しいキャラメルで、でも甘すぎてすぐに飽きてしまう。

そして、その甘ったるい成井作品に心酔してしまったのがプロデューサーの加藤氏だ。彼はそれなりに能力のある人だったと思うのだが、こちらはこちらで大きな弱点を持っていた。一つ目は、成井氏に惚れ込んで、惚れすぎてしまったことである。愛は盲目、というやつだ。二つ目は、成井氏、俳優、スタッフだけを大事にして、周辺の協力者に対して冷淡だったことである。冒頭でビジネスの打ち合わせ、と書いたが、僕はビジネスパートナーとして、キャラメルボックス独自のSNS設立を提案しに行った。当時、僕の会社は複数のSNSを運用していて、将棋の棋譜をアップロードできるとか、独自の機能を付け加えていて、加藤氏に「こんなこともできる」と、色々なアイデアを提示した。それを聞いて加藤氏が何をしたかといえば、「面白いアイデアをいろいろありがとうございました」で終了である。要は、アイデアのタダ取りである。もちろんこれは違法行為ではない。安易に加藤氏を信用して、アイデアを提供した僕が悪い。ただ、僕が加藤氏に持った感想は「身内だけで仲良くやっていければ良い人間」というものだった。この一件以降、僕が加藤氏に何かアイデアを提供したことはない。

#彼は自分の劇団の客について「劇団がファンタジーをやっていることもあって、頭の中がお花畑のお客さんがいて、対応に苦慮している」と部外者の僕にコメントするなど、ちょっと脇の甘いところもあった。

こういう、劇団の製作をベースに役者のプロデュース業へ進出した事務所に、夢の遊眠社を母体にしたシス・カンパニーがある。シスの北村明子さんは、役者の取捨選択には厳しいところがあるが、野田秀樹氏がシスを離れた後も、きちんとマネージメントしているところが素晴らしい。

結局のところ、劇団も、製作者も、イマイチだったので、潰れちゃった、ということだろう。この手の倒産の常として、役者などの、会社に近い人間が債権者になっていることが予想される。彼らの多くもまた、芝居が好きで、一発当てることを夢見て、バイトに汗を流しながら芝居をやっているはずだ。負債は5億らしいが、弱者にしわ寄せがいってしまう事態は避けて欲しいと思う。