2020年08月25日

牟田陽日作品集 美の器



牟田さんの作品集が発売になったので、早速購入してみた。

紙質が良く、発色も良い。撮影も被写界深度を深くしていて、全体がみやすいように工夫されている。

牟田さんはこれまでに幾つかの技術的変革を迎えている。六本木のイケヤン★展(2015)あたりで始めた下絵の導入、うつわノートの展示で大々的に導入した赤絵(2016)、館・游彩で始めた油絵的表現(2016)、などがそれらの例だが、最初のうちは作品からも試行錯誤が窺われて、「これは今回は見送ろう」と思ったこともある。しかし、いつの間にか、きちんと自分のものにしている。特に下絵は非常にうまく消化したと感じる。

#私見です。「もっと前からやってたヨ」と言われるかも?

新しいことに挑戦するのと同時に引き出しに仕舞われてしまう技術もあって、「以前はこういうのも描いていたのにね」とちょっと残念に思うこともあるのだが、捨ててしまったわけではなく、突然思い出したように復活させてみたりする。それはゼットンとか、キングジョーとか、ペギラとか、過去の怪獣が良い具合に登場してくる「ウルトラマンZ」を見る楽しさみたいなものだ。

美術の世界から工芸の世界に入ってきて、工芸の枠組みから美術へ発展しつつあるところが面白く、この作品集を見ていると特に美術方面での動きが良くわかる。

おそらくこれからも一度仕舞った技術を引っ張り出してきたり、新しいことを始めたりするだろう。その気まぐれっぷりが牟田さんの魅力である。一方で、そういう牟田さんの行ったり来たりの中で、自分の好みの作品を見つけていくことも僕にとっては大切で(何しろ、牟田さんの作品は2014年ぐらいに比べてかなり高くなっているし、金銭的に購入可能であっても、抽選で当選するという別のハードルがある)、そのための貴重な資料になる。

一品物の陶芸作品は個人蔵になるとなかなか見る機会がないので、こういう書籍が販売されることは本当に嬉しい。

なお、僕が最初に牟田さんの作品を買ったのは2014年の10月。

牟田陽日さんの猪口
http://buu.blog.jp/archives/51456206.html

確か15000〜18000円ぐらいだったと思うけれど、ロクヒルと六本木の駅を二往復して散々悩んだ末に購入した。その時は、陶芸作品に1万円以上払うなんて、清水の舞台から飛び降りるような話だった。わずか7年弱で色々変化したものだが、この時までに知っていた作家さんの井上雅子さん、川合孝知さん、田畑奈央人さんはみんな今でも好きだし、実生活で使っているものも少なくない。その後に知って、今でも好きな若手は実はそれほど多くない。第一印象でビビっとくるものなんだと思う。そういう意味でも、ほとんど知識のない僕に高いハードルを越えさせた牟田さんの才能というのは凄いのだろう。

この本で、牟田さんの作品は一層入手が困難になりそうだ。今までいろいろ買っておいて良かった。