ビルボードライブ横浜で佐野元春のコンサート。
一言で言えばとても良かった。ビルボードライブは、ボーカルだけでなくバンドメンバーそれぞれの演奏がダイレクトに届く。ギター、キーボード、ベース、ドラムスがそれぞれ魅力的な演奏を繰り広げる。大きい箱だと背景になってしまうバンドメンバーが、きちんと存在感を見せてくれる。
佐野元春は常に彼なりの最先端を走り続けているミュージシャンで、それは初期の三部作の成功のあと、ニューヨークに行ってしまい、1年後にVISITORSというアルバムをリリースしたことで顕著だった。僕はこのアルバムを咀嚼するのに10年以上が必要だったし、それ以前に初期三部作の呪縛から解き放たれるのに数十年の時間を要した。同じような人はきっとたくさんいるはずで、今でもSOMEDAYやハートビートやアンジェリーナを聴きたいと思う人は大勢いそうである。
でも、今回のライブはその頃の曲はゼロ。それでもステージは最高だった。個人的なクライマックスは「ドクター」と「ブルーの見解」。
まずは「ドクター」。佐野元春は1997年に火事で妹さんを亡くしている。「ハートランドからの手紙」というエッセイで妹さんとの関係を綴っているのだけれど、
ハートランドからの手紙105
https://www.moto.co.jp/cover/HL_letter/105.html
妹さんは「常に人生に否定的で、どこか痛々しかった」そうで、佐野元春は人生は悪くないということを伝えることができなかったことを後悔して、妹に伝えられなかったことを妹の代わりに全てのファンに伝えたいのだと思う。
「ブルーの見解」はもっとストレート。これといった背景に関する知識は不要で、「お前に俺を理解することはできない」と宣言している。確かに。最初に語った「VISITORS」に限らず、僕がようやく理解した頃にはもうそこにはいないのが佐野元春だった。これはこの40年ぐらい、ずっとそうだ。ちょっと聴いてみて、好きだ、嫌いだ、と論じることはできる。でも、本当の意味や素晴らしさを理解できるのは本当に音楽を理解しているごく一部のプロやオタクで、僕のようなライトなファンには難解すぎる。
ドクターは1997年、ブルーの見解に至っては1989年の曲である。
僕は20年、30年遅れている。
僕は時々佐野元春のライブに出かけてきたけれど、良く感じていたのは声が出なくなり、声域が狭くなり、昔の歌を歌えなくなってきたことだった。これは昔の歌を昔のように歌って欲しいファンには致命的だった。でも、時は流れていて、佐野元春はもうそこにはいない。昨日のライブは、それを良く理解できた。そして、ザ・ホーボーキング・バンド (Keys:Dr.kyOn、Drums:古田たかし、Guitars:長田 進、Bass:井上富雄)の演奏も満喫できた。
レベッカのライブでも感じたけれど、ビルボードライブのライブ空間はとても心地よい。
動画はこちら。