高級とんかつ店が3店、青山でしのぎを削っている。とんかつ御三家と言えば古くは上野だったのだが、今は青山かもしれない。御三家といっても、店のコンセプトはそれぞれかなり違っている。この新・とんかつ御三家についてまとめておく。
愛好家向けの「tonkatsu.jp」
まず、表参道近くの「tonkatsu.jp」である。この店は異常なまでにたくさんの銘柄豚を用意していて、注文の時点でどれにするか頭を悩まされる。とんかつの愛好家が、色々食べてみたくて自分で店をやってしまいました、といった風情で、ラーメン屋では時々見かけるのだが、とんかつ屋では珍しい。肉の処理、揚げの技術、ご飯の炊き方など、料理の技術的にはそれほど注目すべきところはない。ただ、聞いたこともないような銘柄豚が何種類も提供されているので、コレクタータイプのとんかつ愛好家には良いと思う。
料理人による「じゅんちゃん」
次に、外苑前のホテルの4階で昼はとんかつ、夜は居酒屋という二毛作スタイルで営業している「じゅんちゃん」である。この店は料理の腕前がなかなかで、肉も良いものを仕入れている。ロースはやや凡庸で、豚ロースのソテーに衣をつけているようなとんかつに仕上がっている。一方でヒレはかなり上等で、この店で食べるなら断然ヒレである。ご飯、豚汁、漬物、キャベツにも手抜かりはない。ところが意外なところに弱点はあるもので、一流の料理人が片手間に作ってみました、という雰囲気を拭えない。それが顕著に感じられるのが、食後に提供されるカレーである。店としてはサービスの一環だろうが、食べる側とすればとんかつの余韻が一掃されてしまい、とんかつを食べた満足感が希薄である。むしろカレーを食べた気になってしまう。「とんかつに対する愛情が感じられない」と言えば良いのかもしれない。
美味しさを追求する「ここまでやるか。」
そして、最後にあげるのが「ここまでやるか。」である。この店のとんかつはとんかつに対する愛情が人並みはずれている。低温であげて、高温で二度揚げするその間にも、揚げている音に神経を集中して一番良いタイミングを絶対に逃さないという気迫が感じられる。肉だけでなくご飯もキャベツも味噌汁も美味しい。調理の腕、素材の選び方、定食としての構成の全てに超一流で、またロースもヒレも同じように美味しい。適切に調理されているので、塩もソースも不要なのだが、ソースの温度にまでこだわっている(僕はほとんど素のままで食べてしまったので、ソースのありがたみは実感せずに終わった)。純度高くとんかつを突き詰めた感じで、この味を維持できればすぐに「西のマンジェ、東のここまでやるか。」と言われるようになるのではないか。