2004年07月30日

科学技術館ゲノム展示

きのうここで科学技術館のことに触れたわけだけど、考えてみればここんところ随分不義理をしていたなぁと思い、ふらっと出かけてみた。目的地は5階の「フォレスト」の「ゲノム」コーナー。
フォレストは非常に野心的な展示で、極力説明を排除してある。子ども達が実際に目で見て、手で触れることによって「不思議」を感じてもらおうというコンセプトなのだ。このコンセプトを構築したのは「イエロー」という会社の森田氏。彼のこのコンセプトを総責任の立場にある理化学研究所が許容したのは英断と言えるだろう。
フォレストには基本的に「なぜ?」に対する「回答」が用意されていない。ここに来た子ども達は、その「なぜ」を家に持ち帰ることになる。このコンセプト、僕は非常に評価している。今はどこでも子ども達に安易に回答を与えすぎている気がするからだ。あえて不親切な対応をして、頭を使ってじっくりと考える機会を与えてあげることも重要だろう。ただ、完全に突き放しているわけでもない。
フロアのあちこちにはインストラクターがいて、子ども達の「なぜ」にちょっとしたヒントを与えてくれる。

さて、ちょっと前置きが長くなったが、この「フォレスト」の中で唯一全体のハーモニーを崩しているが「ゲノム」のコーナーである。異彩を放っているのではない。明らかに場違いなのである。でもまぁ、その制作を主導した僕がここで文句を言っても始まらない。とにかく全体のコンセプトを壊している存在が「ゲノム」である。なぜか。非常に説明的なのである。どうしてそうなってしまったのかといえば、展示の内容が難しすぎるから。「ゲノム」の中心は、ある別のイベントのために制作された展示物だ。その内容が非常に難しいため、「突き放す」ことができなかった。そもそも、フォレストに展示すべき物ではなかったわけだが、そこは役所のやること。折角作ったのにもったいないから展示しろ、ということである。まぁ、もったいないのも事実だから、仕方がない。

この展示を導入するにあたり、最も問題になったのはインストラクターの教育である。彼らは子どもの扱いは非常に上手だが、いかんせん生化学に関する知識が全くない。しかし、子ども達は容赦なく質問をしてくる。そのときにきちんとヒントを与えてあげる必要がある。そのためには、必要最低限の知識を彼らに与えてあげる必要があった。

ところが、研究者は難しい言葉を難しく説明することには長けているのだが、難しい言葉を簡単に説明するのは非常に苦手だ。そもそも、相手のレベルに合わせた話をするという事ができない。

そういうわけで、彼らにバイオの本当に基礎的なところを僕が教えることになった。何回か、科学技術館の公開が終わったあとにインストラクターに集まってもらい、講義をやった。また、実際に運営していて疑問に思ったことなどもメモしておいてもらい、可能な部分についてはメールで回答したりしていた。

当時、僕が教えた人たちはもう全然残っていないのだが、今はどうなっているのかな、と、ちょっと気になっていたのだ。

いや、前置きが長くなったと書いたのは大分上。それからまた前置きが続いているが、ようやく前置きは終わりである。

さて、今日展示を見たところ、新しい展示物が増えていた。展示物は「DNAブック」である。なにやら本が2冊おいてあって、背後に解説が書かれている。以下、解説文を転載してみよう(引用はアンダーライン)。

ここに展示されている「マウスDNAブック」は、マウス遺伝子クローン(完全長cDNA)を水溶紙の上に印刷することにより、固相化された書籍の形で通常の郵便物として利用者に届けるものです。
「DNAブック」を用いる時には、使用者は乾燥させたDNAシートからDNAがスポットされた部分を打ち抜いてPCR溶液が入っているチューブに移し、PCR反応を行います。2時間のPCR反応により、遺伝子DNA(完全長cDNA)が増殖し、容易に回収できます。
「DNAブック」は、書籍の出版、輸送、保管のときにさらされる低温から高温、高圧、長期保存に対応することができ、固相化されたDNAは、高い割合で回収できる極めて便利な物となります。保管のための冷凍庫などは一切要らず、室温で本棚などに置いて、使用者が必要なときに必要な遺伝子を使用できます。


この文章を読んで、ちゃんと理解できる人ってどのくらいいるんだろう。少なくとも、科学技術館に来る小学生でこれを理解できる人間は1人もいないと思う。彼らを引率してくる小学校の先生でも、20人に1人といった感じか。少なくとも、大学で生物を専攻していなければ、完全に理解することは不可能だと思う。遺伝子、クローン、完全長cDNA、固相化、DNAシート、スポット、PCR溶液、PCR反応、遺伝子DNA、と、ざっとあげただけでもこれだけの難解な言葉がある。遺伝子とDNAの違いですらきちんと説明できる人は少ないと思われるというのに。さらに「(マウス)遺伝子クローン」と「遺伝子DNA」の2つの言葉に対して「完全長cDNA」という同一の注釈をつけた悪文だ。

これでは、この場で解説をやらされるインストラクターもたまったものではない。

とりあえず、現状をなんとか改善しなくては、ということで、誰にでも手に余るこの文章に関する解説を運営部に送っておいた。しかし、この説明文を差し替えないことには、ねえ。ってことで、一応差し替えの文章の案も送っておいたけど、そんな予算はないかもね(^^;

しかし、「頭を使ってもらうために説明しない」ことと、「相手の立場になってモノを考えず、結果として不親切である」ことは全然違うってこと、わかんないのかなぁ・・・

#ちなみに科学技術館は悪くないです。被害者です。

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この記事へのコメント
「DNAブック」面白そうだけど、よくわかりません。
cDNAライブラリーがただスポットされていて、自分でプライマー設計してPCRにかけるんのか、それともプライマーもついている・・・?

前者だと、本の意味が無い気がするし、後者だと大変すぎて実現し無い気がするし。どうなんでしょ?

科学技術館行ってみたいんだけど、まだ、行けず仕舞いです。
以前、図書館から持ってきた割引券も期限が切れていること必至でしょう。。。。
Posted by ビス子 at 2004年07月31日 02:52
説明を読む限りではプライマー付きだと思うよ。そして、もう出来てる。

今、科学技術館、無料。いつまでだったかな。8月3日までだったかな?
Posted by buu* at 2004年07月31日 03:20
buuさん、こんにちは〜♪

アタシのseamonstersのブログにトラックバックして頂いたようなので、こちらに遊びに来ました。ここで出てくる科学技術館には、小学校の6年生の頃に通っていました。ご近所にある毎日新聞が主催していた科学に興味があるお子ちゃまを対象とした講習会に参加していました。

てこの原理などをインストラクターのおにいさんが講義されていたことは覚えていますが、当時のアタシには難しすぎて何も理解出来ませんでした。今はゲノムについての展示があるようですが、てこの原理など比べ物にならないような難しいことをやっているのですね。ご本文にありましたゲノムの展示にあった説明文(引用された箇所)を読んで頭に残ったのは「ゲノムブックは便利な物なのだな」ということです。実際にはゲノムブックではなくて「DNAブック」なのに。。。

日本に帰ったら、子供と一緒に科学技術館に行きたいです☆
Posted by koneko04 at 2004年07月31日 15:16
こんにちは!コメントありがとうございます。

科学技術館、「面白いなぁ」「不思議だなぁ」と思ってもらえれば、明快な解説が得られなくても良いと思うのです。知識や知恵が身につくのは、何といっても本人の知的好奇心を満たしたい、という欲求があるときだと思うのです。そういう知識は、必ずしもその場で与えられる必要はない、ということですね。今はインターネットもあるし、本もたくさんあるし、教えてくれる人も色々いると思います。誰も教えてくれなかったら、また科学技術館に行って質問するという手もあります。

しかし、そういった成長はあくまでも「面白いなぁ」と感じた場合に期待できるものです。「全然わかんねぇや」じゃ、ダメだと思うんです。DNAブックは、そんな感じなんですよね。日本語で書いてあるのに、日本人のほとんどに理解できない解説なので。

ちなみに、「せめてこの位の内容にしたらどうですか?」と送ってあげたのは下記の文章。これでもちょっと難しいですが、大分マシだと思います(^^;

ここに展示されている「マウスDNAブック」は、マウスの本物の遺伝子(タンパク質の設計図となるもの。DNAによってできています)を「干物」にして収録したものです。
マウスには約10万種類の遺伝子がありますが、このうちの2万種類について「干物」にすることに成功しました。遺伝子の干物は、書籍として製本するときにも壊れる事がありません。また、普通の書籍と同様、本棚にしまって長期間保存することもできます。
この本に収録されている遺伝子の本物が欲しいときは、研究者はその遺伝子が収録されている部分を取り出して、専用の液体に溶かすだけで良いのです。
Posted by buu* at 2004年07月31日 18:30
これから会員になっている地元の科学技術館に子供と子供のお友達を連れて行ってきます〜♪

http://www.discoverycube.org/exhibits/showcaseGallery.htm


ブログに書いたsea monstersのドキュメントを撮影した場所がどこなのか聞いて来ようと思います。

夏休みの間に、

http://www.casciencectr.org/MainPage.php

にも行きたいのですが、上記の会員になっているので下記の方の科学技術館の入場料は無料になります。年会費は大人一人と子供一人で45ドル(二年目からは5ドル割引になる)なので安いもんですよね。

>マウスの本物の遺伝子を「干物」にして収録したものです。

今時の子供は「アジの干物」などを食べることはあるのでしょうか?
でも、干物の説明の方が大人のアタシにもとっつき安いです☆

Posted by koneko04 at 2004年08月01日 04:08
「ふえるわかめ」の方がもっと身近でしょうか(^^????
Posted by buu* at 2004年08月01日 15:46
こんばんは〜。

科学未来館(お台場)と科学技術館(竹橋)を間違えてました。
そして、科学技術館(竹橋)が3日まで無料なのは、
『青少年のための科学の祭典』2004全国大会が開催中だからです・・・。

全国から理科好きの人が集まって、デモ実験をする大規模なイベントです。
もし、お時間のある方は是非足を運んで見てください。
私の知り合いが、出展しています↓
http://www.kagakunosaiten.jp/jsf_demo.html
《B219 身近な粉に隠された科学》

私も、3日に行ってみようかと検討中。かなり盛況らしいです。
Posted by ビス子 at 2004年08月02日 00:57
うん、イベントやってるからただなんだよ(^^
その代わり、すげぇ人だけどね。

確か、親と子のゲノム教室に載せたDNAペーパークラフトもここで出展していたものだと思う。
Posted by buu* at 2004年08月02日 01:27
親と子のゲノムのご本の目次をちらっと見てみました。
とても難しそうなのですが、アタシが読んで内容を理解出来るのかしら?

こちらには三省堂も紀伊国屋もあるので、お店にあるかどうか調べてみます。

息子にぶうさんのハーボットはゲームを二つも持っているのよ♪とお話しました。ゲノムのおにーちゃんのハーボットなのよと言ったら「ゲノムって何?」と聞かれたのですが、アタシもわかんないやということに気が付きました。

ぶうさんのご本を読み、息子が科学に興味が湧くように説明したいと思います。

☆お友達にこちらのサイトのことをお話しましたら、さっそく遊びに来たみたいです。写真の画像がきれいだと感心していましたが、ぶうさんのラーメンのお写真はプロが撮ったみたいですね♪
Posted by koneko04 at 2004年08月04日 15:07
なかったら、言ってください。こちらで入手して送ります(^^

カリフォルニアのハードロックカフェのピンズと交換ってことでどうでしょうか(^^;?????

内容は初級編と中級編にわかれています。多分、初級編だけだったら理解できると思います。中級編はそれなりに難しいので、とりあえず初級編だけ頑張ってみるのが良いと思います。

ラーメンの写真は半分ぐらいはケータイで撮ってます。僕の腕が良いんじゃなくて、デジカメの性能が良いんですね(^^あと、フォトショップで多少色合いをいじったりしていますので、そのせいもあるかもしれません。
Posted by buu* at 2004年08月04日 23:17
さっそく三省堂に行って、在庫があるか聞いてみました。

こ:「すみません。親と子のゲノムという本はおいてらっしゃいますか?」

店員:「えっ、ゲノム?」(なんだ、それ?というムードだったのが)

店員:「今はないけど、誰かが注文していたかな?」

と言っていましたよ。こちらには文部科学省というのかしら? 昔の文部省から教師が派遣されて運営されているアサヒ学園という日本語学校があるので、教育熱心な親御さんが「親と子のゲノム」をお買い求めになられたのかもしれませんね♪

注文したら夏の終わりに届くそうです。

ピンズと交換で送って頂くという案に乗りたいです〜☆

ところで、ピンズとは何なのでしょうか?

ハードロックカフェはNewport Beach, Californiaにありますよ。
Posted by koneko04 at 2004年08月05日 16:21
ピンズっていうのは、まぁ、バッジですね。米国では「pin」あるいは「pins」と表記されていると思います。HRCには多分食事する店とマーチャンダイズと両方が併設されていて、マーチャンダイズの方で売ってるんじゃないかなぁと思うのですが・・・・・店ごとにデザインが違っていて、各店で10種類ぐらいのピンを常時売っていると思います。うーーーん、でも、Newport Beachにある保証はないんですが・・・・

あ、でもイーベイでサーチするとたくさんピンがひっかかってくるので、やっぱりありますね。

http://search.ebay.com/pin-newport-beach-hard-rock-cafe_W0QQsokeywordredirectZ1QQfromZR8
Posted by buu* at 2004年08月05日 18:02