先日から、吉田秋生の「BANANA FISH」のアニメが放送開始になった。この漫画は日本の実家に行けば全巻本棚の中に眠っているのだが、もちろんこれだけのために日本へ行くことはできない。電子書籍で買っても良いのだけれど、せっかくこれからアニメで放送されるので、わざわざ書い直す必要もないかな、と思って購入を見合わせた(電子書籍があるかどうかも不明だが)。
その際、BANANA FISHではなく、「吉祥天女」という作品に目が止まった。これは僕が高校生ぐらいのときの作品で、大学生の時に「BANANA FISHは吉祥天女の吉田秋生の新作」という形で聞いて、吉田秋生の出世作として知っていた。しかし、読んだことはなかった。
この作品のキンドル版の1巻が無料に割り引かれていたので、ポチッと買ってしまった。1巻を読んだ限りではなかなか面白い。続きが気になる。残りは3冊で、各432円である。ここで、アマゾンで同時に目に入るのが中古本価格である。古いヒット作なので、1冊1円で送料のみ、みたいな出品も少なくない。もし僕が日本にいたら、こちらを買うだろう。1300円ぐらいを節約しようと思えば、漫画喫茶に行く人もいるかもしれない。そこまで考えてみると、
(1)1巻で読むのをやめる人
(2)残り3冊は中古や漫喫ですませる人
(3)残り3冊を購入する人
の3タイプにわかれることになる。それぞれの売り上げは
(1)なし
(2)なし
(3)1296円
となるのだが、出版社としては(3)を選ぶ人がどの程度いるのかが問題となる。ただ、すごく昔の作品ということもあって、大量の顧客を生むことは難しいだろう。しかし、売上を増やす方法がないだろうか。
電子書籍は製造、販売コストがハード書籍と比較してとても安く済むので、もっと購入者を増やす方策があるのではないかと思う。それは、1巻だけを無料にするのではなく、3巻までを無料にするのである。そして、4巻を432円で販売する。
(3)の1296円に比較して6割7分の割引となるので、購入者は3倍増する必要があるのだが、1巻で読むのをやめることと、3巻でやめることを考えれば、後者の方が抵抗は格段に高くなるだろう。また、1300円を節約するために中古本や漫喫を利用する層も、432円なら購入に転換する可能性がある。つまり、(1)や(2)の層が(3)へ流入してくる可能性がある。(3)の売り上げが3分の1に減少するのだが、トータルで考えると、それほど大きな減額とはならないのではないか。
ここでもう一つ見逃せないのが、(1)で終わっていたはずの層が、最終巻だけに課金したことによって(3)に転換して全部読んでくれることによって、「吉田秋生」のマーケティングにつながるということだ。「この作者の他の作品も読んでみたい」と思う可能性は決して低くない。吉田秋生の場合は海街Diaryが継続中なので、その販売部数が伸びる可能性もある。
こうした販売手法は電子書籍ならではの手法で、大きな出版社ではやりにくいところもあるだろう。ただ、1巻だけを無料にするくらいなら、3巻まで無料にした方が、成果はあがりそうだ。
吉田秋生の場合、海街Diaryの映画を是枝氏が監督していて、是枝氏の万引き家族が評判というつながりもある。BANANA FISHのアニメ化もあるので、さらに「吉祥天女が3巻まで無料」とプロモーションすれば、収益増が期待できるのではないか。
ちょっと前までは漫画を電子化しても、買ってくれる層の絶対数が少なかった。しかし、今は、電子書籍で販売しても購入してくれる層が相当数存在する。電子書籍に対する抵抗感も軽減してきた。そうした状況にあった割引を考えても良いはずだ。