2015年09月06日

続々 五輪エンブレムについて

先に書いたこの問題に関する記事はこちら

五輪エンブレムについて
http://buu.blog.jp/archives/51504847.html

続 五輪エンブレムについて
http://buu.blog.jp/archives/51505232.html

さて、日本人はバランスを取りたがる民族なのか、一方的に叩かれてノックダウンされた佐野氏を擁護する意見がチラホラでてきた。どれも「はて?」と思わされる内容だったのだが、今回、かなり長文にまとめた記事を見つけたので、それにコメントしつつ、今回の佐野氏のエンブレムが撤回されたことが妥当だったのかを明確にしたい。

まず、記事はこちら。
それでもあの五輪エンブレムは”パクリ”ではない!
〜そもそもデザインとは何か?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44972

以下、引用しつつコメントしていく。
撤回へのきっかけとなった原案よりも、私個人は最終案のほうがアイデアのスケールが大きいと感じる。

まず、今回の大きな問題点がこの不透明な「変更」なのだが、その点について本稿は全く言及がない。今回の騒動の流れとしては

0.エンブレムのデザインと、そのコンセプトが発表された
1.エンブレムのデザインのだささが指摘された
2.エンブレムとリエージュ劇場のロゴの類似性が指摘された
3.現在の案は最終案で、原案が存在したことが説明された(8月28日)
4.当初案とヤン・チヒョルト展のポスターとの類似性が指摘された

というものだが、おかしかったのは、3の説明における「原案」と、0で発表された「エンブレムのコンセプト」に乖離があったことだ。エンブレム(最終案)のコンセプトの説明では「正方形を9分割したものと日の丸を重ねて、1964東京五輪のエンブレムへのオマージュとした」という主旨の話があったのだが、原案には日の丸を重ねたコンセプトが全く存在していなかった。デザインにおいてベースとなるべき「コンセプト」が、組織委員会の指摘によってあと付けされたことが判明してしまい、「なんだそれ」となったわけである。

盗用というのはふつう「バレない」ようにするのが基本だろう。デザイナーとしてのキャリアが20年以上ともなる佐野氏が、ここ一番のコンペでそこまで杜撰な盗用をするだろうか。

何か論理的な説明があるのかと思ったら、著者の主観による推測が論旨でびっくりした。しかも、すぐあとで
あそこまでわかりやすく似せる

と、デザインが良く似ていることについて主観を述べている。「あの五輪エンブレムは”パクリ”ではない!」とタイトルしておいて、「だって、そんな馬鹿なことするわけないじゃん」では拍子抜けも甚だしい。

たとえば写真でもトリミングが1mmずれただけで、ビジュアルの印象というものはかなり変わってくる。見る側は理性ではなく、感性でその細かな違いを実は見分けている。そこまできちんと計算して世に送り出せるのがプロである。そのこだわりが極まって、0.1mmレベルの世界で作業をしているデザイナーもざらにいる。

このデザインに対するこだわりがどこまで本当なのかはさっぱりわからないし、トリミングにおける1ミリがどのくらいのサイズの写真での話なのかという重要な情報が欠落していて、筆者の説明力の低さが窺われるのだが、ともかく、これを是とするなら、「1ミリにもこだわるデザイナーが、組織委員会の指摘によってコロコロ2度もデザインに修正を加えるのか。結果として、原案と最終案は全く異なるものになっているが、デザイナーとしての矜持はどこへ消えたのか?」となる。

以下、今回の問題とは離れた筆者の個人的主張が続くのでざっくりと割愛して8ページに飛ぶ。
美術やデザインの教科書などでもよく紹介される名作、国宝「平家納経」の見返しに俵屋宗達が描いた鹿の画をヌケヌケというほど見事にトレースしている。このポスターが制作された当時は、ネットの画像検索などなかったわけだが、多くの人たちが元ネタを知っていたので、これは明らかに「わざと」かつ「あえて」なチャレンジである。

同様の意見として、風神雷神図を例に、似ている芸術は山ほどある、という擁護論を開陳している例があるのだけれど、それらと今回の一件とには重要な相違がある。それは、インスパイアされていることが発表時において明らかかどうかである。仮に俵屋宗達が全く無名の画家で、宗達が尾形光琳のもとに「こんな絵を描いてみました」とやってきて、尾形光琳がその絵の存在を握りつぶした上で、自身のオリジナルとして風神雷神を描いていて、後日そのことが明らかになったのであれば、光琳の風神雷神の評価は全く異なるものとなるだろう。こっそり盗むことと、おおっぴらに参考にすることは全く違う。そうした全く違う性質のものをあえて並べることによって、佐野氏のデザインの正当性を主張する書き方からは悪意しか感じ取ることができない。

補足:佐野氏が手がけたデザインは盗用か?

ここでも、それほど問題とは思えない事例を大きく扱っていて、明らかに問題と思われる事例を簡単にスルーしたり、あるいは言及すらなかったりするので拍子抜けする。世間の趨勢は知らないが、少なくとも僕は東山動植物園と太田市美術館・図書館のロゴについてはパクリだとは思わない。前の文章を読んでもらえればわかるが、僕が明らかにクロだと思ったのはサントリーのトートーバッグと、展開例の資料で使った画像で、この2つにおいてだけで、エンブレム作成の担当者として欠格だと考えている。加えて、エンブレムの原案は限りなくクロに近いグレーと考えている。その後に発見された多摩美大のポスター数点について盗用の指摘がなされているが、

佐野氏の盗用が次々と発覚 多摩美大のポスター、『Zoff』のメガネ写真を無断利用か
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1852106.html

この、文字が溶けている奴などは劣化コピーの可能性が非常に高いと思っている(YOUR LIFは、溶けている文字の量によって水中の墨の量が変化しているのだが、佐野氏のポスターはその辺が整合が取れていないところが「劣化」)。Zoffのメガネもトレースの可能性は高いと思う。

また、サントリーについて本稿は
明らかに問題があると思うのは、エンブレムの展開写真の無断使用とサントリー・ALL FREEの「夏は昼からトート」キャンペーンの全30点中の1点。

と書いているのだが、すでに8つの作品について他人の著作物をトレースして利用したことを根拠に、佐野氏自身がデザインを取り下げているのである。それらについて問題なしと判断する著者の姿勢からも、「単に意識が甘いか、佐野氏と仲良しなだけ」という印象を受ける。

さて、まとめておこう。佐野氏は、サントリーのトートバッグと、五輪エンブレム展開例の資料において、盗用を行った。これは本人も認めている事実である。そのような、他者の権利に対して無頓着な作家は五輪エンブレム制作者としての品格に欠けると思う。そして、五輪エンブレムの原案は、すでに発表されていたデザインに酷似していた。その関連性については厳密な判断は不可能なので、これ以上の追求は無意味だろう。過去に盗用を行っていた人物が、盗用を疑われる作品を提出した、ということだ。「李下に冠を正さず」とはよく言ったものである。さらに加えて、最終案の説明にあったデザインコンセプトが原案には存在せず、応募、選考、修正、決定にいたるプロセスにおいて何らかの不公正が行われた可能性を否定できない。以上において、今回の佐野氏によるエンブレムが撤回されたことは、妥当な判断だと思う。ただし、その責任のすべてが佐野氏にあるとは思わない。組織委員会の側にも大きな瑕疵があったと思う。
  

Posted by buu2 at 21:30Comments(0)TrackBack(0)ニュース

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2015年09月03日

続 五輪エンブレムについて

どうなるか注目していたのだが、佐野氏は逃げ切りに失敗した。それを伝えるのが次の記事だ。

東京五輪エンブレム取り下げ 組織委、新たに公募へ
http://digital.asahi.com/articles/ASH915RS0H91UTQP02D.html

この記事を読むと、「はて?」と思う部分がいくつかある。

佐野氏は相変わらず正当性を主張しているのだが、彼がここで認めたらデザイナー人生は終了なので当たり前である。個人的には取り下げられた最終案とベルギーのリエージュ劇場のロゴの関係性については次のように判断を保留していたのだが
今回のエンブレムが盗用なのか、それともたまたま似てしまったのかは判断が難しく

五輪エンブレムについて
http://buu.blog.jp/archives/51504847.html

その後に出てきた原案と、ドイツのタイポグラファー、ヤン・チヒョルトの展覧会ポスターについてはクロだと考えた。これは実は選考委員会も認知していて、だからこそ二度に渡って修正を要求したんだと思う。その際、リエージュ劇場のロゴを参考にしたかどうかは不明だが、審査委員会がなぜ二度も修正を要求してまで佐野氏の起用に拘ったのかはちょっと理解に苦しむところである。ともあれ、この限りなくクロに見える原案と、その説明に利用した「活用例」の明らかな盗用によって、佐野氏は逃げ道を塞がれ、擁護派もこれ以上の擁護が困難であると判断したのだろう。

加えて、今回の騒動を契機にして穿り返された、過去のパクリ疑惑も問題になったはずだ。特に多摩美大関連のパクリ疑惑についてはこれまたクロの疑いが強い。無断使用を認めて撤回したサントリーのトートーバッグの件をあわせて考えると、佐野氏の今回のエンブレム案は、グレーであってもクロに近いと思わされてしまう。上にリンクした「五輪エンブレムについて」というエントリーでも書いたのだが、佐野氏には五輪エンブレムを描くだけの品格が不足していたと思う。

ただ、問題は佐野氏が手がけたデザインのみにあることなので、今の段階では彼を養護するデザイン関係者や、佐野氏の家族には関係がない。記事に書かれているような佐野氏の家族にまで悪影響があったとすれば、それはお門違いと言える。こういった誹謗が事実であれば、それはそれで非難されるべきだろう。目的は手段を正当化しない。正しい目的は、正しい行動のみの集積によって実現されるべきだ。

#ただ、佐野氏の家族や親しい知人の中には五輪エンブレムの決定過程においてその結論に影響を与えかねない人物が複数おり、そういった人物たちについては「関係がない」とは言い切れないところがある。

次に、武藤事務総長のコメントである。事務総長は「審査時の内部資料として作ったが、公になる際に権利者の了解を得るのを怠った。不注意だった」と無断転用を認めつつ、内部資料だったから問題ないという見解を示している。しかし、著作権法で認められているのは私的利用の範囲内であって、内部資料はこれに当たらない(私的利用は、個人や家庭内、それに準ずる範囲(家族同様の親しい範囲))。加えて、今回の無断転用は、わざわざ「copyright」の表記をトリミングして削除していた。内部資料として転用するだけならこの表示を削除する必要性は一切なかったはずだし、もしそれが残っていれば、28日の説明会見の前に権利者への打診があったはずである。法律の認識もおかしいが、内部資料だからオッケーとしても、わざわざ「copyright」表記を削ったことに対する追求があってしかるべきなのに、それを怠っている。こういう体質こそが、今回の事態を招いたのだろう。

審査委員の永井代表のコメントもおかしいと思う。「模倣でないとの説明は専門家には分かるが、一般国民の納得を得るのは難しい」とは、「こっちは悪くないが、衆愚の圧力に屈した」という感じである。僕は専門家ではないので、ヤン・チヒョルトの展覧会ポスターと原案はそっくりに見える。この類似性を専門家以外の一般の人に対して平易な言葉を使って否定できないなら、専門家の腕が悪いのではないだろうか?加えて、佐野氏がこれまでパクリを繰り返している人物であることの評価が何もない。「李下に冠を正さず」で言うなら、これまで何度もすももを盗んでいる人物がすももの樹の下で冠を正しているのだ。その点にも言及があってしかるべきだろう。

さて、ともあれ佐野案は取下げられたので、新しいデザインを選ぶ必要がある。いっそのこと1964のデザインをそのまま、という意見もあるが、これには全く同意できない。ダメなのは佐野氏や審査委員を含めた既得権者や、これまでの価値観に胡座をかいている老害たちであって、デザイナー全体ではない。五輪エンブレムはデザイナーにとって大きなチャンスなのだから、きちんと再公募して、国民的な投票で決めれば良い。その際、応募資格はなるべく緩和するのが望ましいし、募集する側はデザインに求められる思想や、デザイン上の制約などを明示すべきだ。「粗製乱造では困る」という指摘はもっともなので、イラレやフォトショでのファイル提出を要求するとか、公式サイトにおける事前投票で一定数以上の推薦票がなかった場合には足切りにするといった手段もありだろう。

以下、全くの余談だが、アルファベットをモチーフにデザインするのは非常に危険なので避けるべきだろう。  

2014年02月20日

【急募】森喜朗東京五輪・パラリンピック組織委員会会長を辞めさせる方法

森喜朗は都知事選でも「原発ゼロなら五輪返上」という珍説を展開して馬鹿を晒していたのだが、

「原発ゼロなら五輪返上」 ハタ迷惑な森喜朗の“ご乱心”
http://gendai.net/articles/view/news/147354

今度はこれである。

森元首相 真央に「あの子、大事なときには必ず転ぶ」
http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2014/02/20/kiji/K20140220007629140.html

「負けると分かっていた。浅田真央選手を出して恥をかかせることはなかった」


「見事にひっくり返った。あの子、大事なときには必ず転ぶ」


だそうで。こんな奴が東京五輪・パラリンピック組織委員会会長で良いの?こいつを辞めさせる方法はないの???  
Posted by buu2 at 17:02Comments(0)TrackBack(0)ニュース

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